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証券行政の要、身内が調査 裁判官 インサイダー疑惑 低い規範意識にあきれ声


証券行政の要、身内が調査 裁判官 インサイダー疑惑 低い規範意識にあきれ声 過去の主なインサイダー取引事件
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 証券行政の要である金融庁に出向していた裁判官が、職務中に知った情報に基づきインサイダー取引を繰り返したとして、「身内」である証券取引等監視委員会の強制調査を受けていたことが分かった。金融庁職員と裁判官の二つの肩書を持つ公務員による前代未聞の不祥事に、市場関係者は「信じられない」とあきれ果てる。高い規範意識が求められる立場で、厳正処分は必至だ。 (25面に関連)

 正確な秘匿情報

 「金融庁としては本当にいい迷惑だ」。出向中の裁判官によるインサイダー疑惑が発覚し、同庁関係者が吐き捨てるように話した。
 関係者によると、企業開示課の課長補佐だった男性裁判官は、上場企業から提出された株式公開買い付け(TOB)に関する書類の審査を担当していた。日々「正確な秘匿情報」(関係者)に接するポジション。高い規範意識が求められることから、かなり以前から裁判官の出向を受け入れていたという。
 監視委はかねて、証券市場の公正性をゆがめかねないインサイダー取引への監視を強化。事例集を公表したり、セミナーに出向いたりといった注意喚起にも力を入れているが、インサイダー取引を「軽微な犯罪」と捉える向きは依然根強い。
 監視委によると、インサイダー取引の刑事告発は2020年度の1件から21年度は5件、22年度は7件と増加傾向にある。最近では、未公表の重要事実であると伝えずに知人らに株の売買を勧める「取引推奨」の調査にも注力している。

 最大級の悪質性

 インサイダー取引をした人物が行政処分の一つである課徴金納付命令の対象となるか、起訴につながる刑事告発の対象となるかの分かれ目はいくつかある。利得を得られなくてもインサイダー取引は成立するが、一般に利得が多ければ多いほど告発の可能性は高まる。
 監視委や検察当局は、違反をした人物の立場も重視するとされている。似た手口、利得でも、役員より社長、一般の会社員より公務員や証券会社の社員の方が告発の対象となりやすい。
 過去には、企業の合併、増資情報を基にインサイダー取引をした経済産業省の元審議官が逮捕・起訴された例も。東京地裁は13年「インサイダーを厳に慎むべき立場にもかかわらず私益のために犯行に及んだ」として有罪判決を言い渡し、その後、確定した。
 この点で、金融・証券行政をつかさどる金融庁に出向していた裁判官によるインサイダー取引は、悪質性という観点では「最大級」(関係者)といえる。ある監視委幹部は「身内に甘く対応するわけにはいかず、強制調査を選んだ」と説明。本人名義で売買を繰り返していたとされることを念頭に「なぜばれないと思ったのか。裁判官は高度な倫理観が求められるはずなのに…」とあきれた様子で話した。