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「過密時間割」放置するな 現場任せの対応は限界


「過密時間割」放置するな 現場任せの対応は限界
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 全国の学校が、過密な時間割にあえいでいる。ある小学校長から「毎日6時間授業でもこなし切れないよ」と聞き、6時間目はいつも憂鬱(ゆううつ)になっていた昔を思い出した。
 文部科学省が定める小4~中3の年間の標準授業時間数は1015時間(1時間=1こま、小は45分、中は50分)。学級閉鎖などに備えて積み増している学校が多く、2021年度の小4の全国平均は1060時間に上った。多くの学校は長期休暇などを除く年間35週で授業計画を立てており、週当たりに換算すると30時間を超える計算だ。
 この“過密ダイヤ”が最近、教員の働き方改革の妨げになっているとして関心を集めている。授業時間数を決める権限は校長にあるが、24年度は教育委員会から時数を減らすよう暗に迫られる校長も出てきた。
 多忙の要因として、部活動や書類作成業務などはやり玉に挙げられてきたが、教職の本分であるためか授業時間を問題視する声は控えめだった。しかし、1人で多くの教科を受け持つ小学校教員は特に持ちこま数が多く、放課後に授業の準備を繰り越すなど長
時間労働の一因になっている。
 過密ダイヤは教員の労働問題にとどまらず、子どもたちの心と体にも影響を及ぼす。
 東京学芸大の大森直樹教授(教育学)は、学習指導要領の改定と連動して示される標準時数の変遷を検証した。(1)1989年(週6日授業・週当たり27時間、小4の場合で特別活動の時間を除く)(2)98年(週5日26時間)(3)2008年(週5日27時間)(4)17年(週5日28時間)―の4回の指導要領改定を経験した約500人の教員に「子どもの生活に合っていたか」「子どもの学習は充実していたか」を尋ねた結果、ともに最高評価は(1)、最低評価は(4)だった。
 大森教授は「時代が下るに従って子どもの生活実態から離れ、学習の充実度も下がっていることが読み取れる。今の指導要領は平日1日の時数で言えば、最も肥大な教育課程だ」と分析する。
 回答した教員からは「6時間目になると明らかに子どもの集中力が落ちる。授業に身が入らず非効率だ」「不登校の増加は過密な時間割と無関係ではない」と現状を危惧する声が上がっている。
 文科省は昨年「標準時数を大幅に上回る必要はない」とする通知を出した。だが、問い直されるべきは、学校5日制における現在の標準時数そのものではないのか。
 学校の管理職は「学力低下と批判されるのが怖く、標準時数を上回るよう無言の圧力がかかっている」と本音を漏らす。
 やむを得ず運動会や遠足の時間、夏休みなどを短縮して時間を捻出している学校もあるが、現場任せの小手先の対応は既に限界に達している。
 「できるだけ多くの内容を学ばせたい」という“親心”は、子どもにとってはありがた迷惑になっている恐れがある。
 教員の働き方改革はもちろん大切だが、標準時数の議論には、子どもの実態を踏まえた視点が欠かせない。(共同通信編集委員・名古谷隆彦)