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授業料「上げたい」本音 国公立大 識者「奨学金拡充を」


授業料「上げたい」本音 国公立大 識者「奨学金拡充を」 大学授業料の変遷
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 20年近く据え置かれてきた国立大授業料の値上げを巡る議論が関心を集めている。東大が検討を進めており、国からの交付金が減らされ財政が逼迫(ひっぱく)する地方大からは「上げたいのが本音」との声が漏れる。大学間の公平な競争環境を求める私立大も、引き上げを要請。ただ家計への影響は大きく、識者は奨学金など支援制度の拡充が必須だと強調する。
 「国立大の授業料を年150万円程度に」。少子化時代の大学の在り方を議論する中教審の特別部会で3月、伊藤公平・慶応義塾長が提言した。文部科学省によると、国立大の授業料は省令で標準額が定められており、年53万5800円。2023年度の私大平均は95万9205円だった。伊藤氏は、大学間の公平な競争には国立大の値上げが必要だと指摘。その上で「経済的負担軽減のため、学生の事情に応じた奨学金制度などを整備すべきだ」とした。
 国立の標準額は05年春に1万5000円引き上げられて以降変わっていない。大学の判断で2割まで増額でき、既に一橋大や千葉大などは上限の64万2960円に引き上げたものの、多くの大学は20年近く据え置いている。
 ただ国立大は04年の法人化以降、人件費などに充てる国からの運営費交付金の減額が続き、経営は厳しい。国立大学協会は今月7日、物価高騰なども重なり「(財務状況は)もう限界」との声明を発表した。
 ある地方の国立大学長は「教職員に民間企業並みの給料を払う原資がない」と漏らす。東大の検討には「うちも含め地方大は、上げたくても悪目立ちしたくないから横にらみの状況。東大が言ってくれて喜んでいる」と打ち明ける。日本学生支援機構の調査では、22年度の国立大生(夜間部を除く)の年間の平均生活費は86万1900円。私大より自宅外から通う学生が多いため、私大に比べ23万円高かった。一方、収入内訳のうち、仕送りなど家庭からの給付は20年度に比べ年間6万4000円減少。授業料アップで負担はさらに増す。
 長崎県で小学生と高校生の子どもを育てる40代の女性会社員は、授業料値上げについて「たとえ数万円でも苦しい。都市部と地方では所得も違う。子どもの選択肢を狭めかねない」と憤る。
 国は20年度から、世帯年収約380万円未満を対象に授業料減免や返済不要の給付型奨学金支給といった高等教育の修学支援制度を開始。24年度に多子世帯や私立の理工農系学生に限り年収約600万円まで拡充した。文科省幹部は「苦しい世帯の負担はある程度カバーできている」と語る。
 中教審特別部会は年度内の答申に向け、授業料や公費支援の在り方の議論を進める方針だ。筑波大の金子元久特命教授(高等教育論)は「経営面を考慮すると、国立大でも一定の値上げの議論は避けられない」と指摘。その上で「現状では中間層への支援が不十分。給付型奨学金の拡充や、貸与型でも返済免除となる条件を柔軟にするなどの制度設計が求められる」と述べた。