宜野湾市議会の意見書 問われる沖縄人の良心<佐藤優のウチナー評論>


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 9月27日、宜野湾市議会が、米海兵隊普天間飛行場の辺野古への移設促進を求める意見書を賛成多数で可決した。東京の政治エリート(国会議員、官僚)は、この声が普天間飛行場を抱える宜野湾市から出てくることを待望していた。辺野古新基地建設に関して、沖縄内部での分断が深刻になるからだ。しかし、このニュースに対する全国紙の扱いが小さい。沖縄問題に対する関心が高い「朝日新聞」ですら、こんな感じだ。

 <米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画をめぐり、宜野湾市議会は27日、辺野古への移設促進を求める意見書を賛成多数で可決した。一方、移設先の辺野古を抱える名護市の市議会は26日、移設工事の即時中止などを求める意見書を賛成多数で可決した。/宜野湾市議会はこれまで普天間の早期返還を求める決議や意見書を可決してきたが、移設先として辺野古を明記したのは初めて>(9月28日「朝日新聞」朝刊)

 NHKのウエブサイトは、背景事情を新聞よりも詳しく説明している。<野党側は、「県民投票などで移設反対の民意は示されていて、県民に寄り添っていない対応は断じて許されない」などとして移設に反対する意見書を提出しましたが、否決されました。/宜野湾市の松川(正則)市長は「なかなか変わらない現状がある中で『促進』という言葉が初めて意見書に入った。議会の決定を重く受け止めたい」と話していました>(9月27日、NHK NEWS WEB)。

 本件に関して、与野党の国会議員や全国紙記者に見解をただしてみたが、ほとんどの国会議員が宜野湾市議会がこのような意見書を可決したという事実を知らなかった。記者は報道について知ってはいるが、ほぼ関心がない。国会議員や全国紙記者には、辺野古新基地の建設が遠い外国の出来事のように受け止められている。「沖縄の過重負担は何とかしなくてはならないけれど、日韓関係が緊張し、中国の軍事大国化が急速に進んでいる状況で、沖縄が地政学的に国防上、特別の負担を担うのはやむを得ない。あとはどうやってうまく沖縄を納得させるかだ。幸い翁長雄志前知事のような先鋭化した対決姿勢を玉城デニー現知事は取らない。権力の実体は、謝花喜一郎副知事を中心とする県庁のテクノクラートにある。

 この人たちは、辺野古新基地建設反対との立場は変えないが、中央政府との関係をあえて緊張させようとはしない。従って、現在の膠着(こうちゃく)状態をそのまま続けていれば、一般の沖縄県民が、辺野古移設はやむを得ないと諦めの境地に達する。時の経過は(中央)政府にとって有利だ」というのが、筆者が取材した官僚、国会議員の平均的な考えだ。この人たちの認識において沖縄は遠い異国のような存在だ。そしてこの意識を多くの普通の日本人が共有している。この状況を覆すことは難しいというのが筆者の率直な認識だ。

 こういう状況だからこそ、沖縄と日本、そして全世界に住む沖縄人が団結することが重要だ。宜野湾市には、普天間飛行場を直ちに閉鎖してほしいという強い思いがある。宜野湾市議会は、それについてのみ言及すれば十分ではないか。なぜ名護市の辺野古を移設先と名指しするのか。この意見書に賛成した議員は、心の底から辺野古移設を望んでいるのか。それとも政治ゲームの中で中央政府に擦り寄ることが有利と考えて移設先に辺野古を名指ししたのか。この意見書に賛成した人、一人一人の沖縄人としての良心が問われる。祖国沖縄での内部分裂は、われわれ日本に住む沖縄人にとって、とてもつらい出来事だ。

(作家・元外務省主任分析官)