人件費や土地の安さ、振興策で増えたコールセンター 労働の質の改善課題 〈復帰半世紀へ・展望沖縄の姿〉7


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「最低賃金は上がっても沖縄県と東京都の賃金格差はむしろ拡大している」と問題提起するコールセンターで働いている男性=11日、うるま市

 「人はよく辞めていったよ。残業しても残業代がつかないのに『ノルマ達成するまで電話をかけ続けろ』って言われてね」。66歳の男性が4年前まで働いた宜野湾市のコールセンターは唯一の正社員でも手取りは15万~16万円程度。残業代は出ず、従業員は次々に辞めた。

 数年で会社は事業所をたたみ、全従業員を解雇した。中には母子家庭の母親も多く、突然の解雇通知に戸惑いと怒りの声が上がる中、男性は「無責任で許せない」と労働組合を組織し、行政に支援を求めた。

 男性が事業所に入ったきっかけは求人情報雑誌の「立ち上げ間もない事業所」という広告だった。東京が本社で2012年、宜野湾市に事業所を設立。男性は長年、営業マンとして勤めた東京の問屋会社をリーマンショックのあおりで辞め、沖縄に帰郷していた。「心機一転、新しい場所で力を発揮したい」という第二の人生への思いは崩れ去った。

 県内でコールセンターの事業所立地が増えた背景には、県が雇用対策としてコールセンター誘致を進めてきた政策がある。県は1998年、情報通信関連産業の創出と集積で自立的な経済発展を目指す「マルチメディア・アイランド構想」を策定し、雇用目標も設定した。当時の失業率は7~8%と高い状況で深刻な課題だった。

 税制優遇や補助金などの振興策と、人件費や土地の安さから県外企業が次々に県内に事業所を構えた。しかし雇用が生まれた一方で低賃金や非正規雇用の固定化、派遣会社の「搾取」という悪循環を招いた。

 男性は今、那覇市の別のコールセンターで働く。派遣会社に登録していたが、無遅刻無欠勤を続け、会社の誘いで直接雇用になることができた。時給は850円から約980円に。交通費も駐車料で1日30円引かれていたが、今は1日千円支給がある。それでも契約は3カ月更新。将来性を感じないといい、「この年だから別の仕事はない。でも30代なら(この条件で)働いていない」と話す。

 コールセンターは現在、人手不足やデジタル化の波で変革を求められている。県内17社が加盟する県コールセンター産業協議会の高橋健太郎理事は「20年前とは違う。ブランド価値を回復させるために、沖縄から新しいモデルを作っていかないといけない」と語る。

 高橋さんが沖縄本部長を務める約4千人を雇用する会社では、デジタル化で契約企業の売り上げ拡大に寄与したり、電話量を減らしたりして生産性を上げることに取り組む。人件費の向上にもつなげられるという。

 コールセンターの新規立地による県内雇用者は全体の6割を占める1万7千874人。労働集約型から付加価値創出型への転換による労働の質改善は、業界だけでなく、誘致政策を進めてきた県の課題でもある。

(中村万里子)