米国防権限法案への対応遅く 知事訪米で見えてきた県の問題点とは… 〈玉城県政の外交・米議会訪問後の展望〉上


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
ベーコン下院議員(左から4人目)に辺野古新基地建設現場の軟弱地盤の問題などを説明する玉城デニー知事(同3人目)=17日、ワシントン市内(沖縄県提供)

 「本来なら9月には成立している。訪米は遅すぎるくらいだ」。10月14日に就任して2回目となる玉城デニー知事の周辺からは、国防権限法案が成立するとみられていた9月を過ぎても訪米の日程が決まらないことに疑問を呈する声が出ていた。

 国防権限法案(NDAA)は、米国の国防計画の根拠となる国家予算の大枠を決める重要な法案だ。2020会計年度(19年10月~20年9月)の国防権限法案は当初、上下両院の両院協議会による一本化の作業を9月ごろまでに終える予定だった。

 国防問題などを扱う米ディフェンス・ニュースは9月8日付で「国防議員ら、NDAA成立に向け積極的に日程調整」との見出しで、上下両院で一本化の作業を急いでいることを報じた。重要課題として挙げられたのは(1)メキシコとの国境の「壁」建設費(2)潜水艦への核兵器搭載(3)対立するイランとの戦争回避―などだ。

 主要審議項目と見られていないものの、沖縄にとって重要な条項が上院案に含まれていた。

 上院案1255条。国防総省に対し「沖縄における米海兵隊の削減が重要であると認識し、沖縄、グアム、ハワイ、オーストラリア、その他の地域で計画されている米軍の分散配備を検証すること」と求める内容が明記された。前文で「12年4月に日米安全保障協議委員会(2プラス2)が発出した日米共同声明と、13年10月に改定された分散配備計画」が対象と明記された。

 つまり、「辺野古」の文字はないものの、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移転計画をはじめとする海兵隊の分散配備計画を指していることが文脈で分かるようになっている。

 「沖縄が注目しているのは分かる」。上院軍事委員会に所属する委員のスタッフは協議中として詳細は語らなかったが、本紙の取材に対し、辺野古移設計画も含まれていることを示唆した。

 ただ、県の出足は遅かった。上院軍事委員会が法案に合意し、可決したのが6月下旬。玉城知事が「できれば年内に」と訪米を検討していることを明らかにしたのはそれから2カ月後の8月下旬だった。当初の法案可決時期の見込みは9月で、県幹部は「知事訪米のタイミングを計っていた」とするが、仮に日程通りに上下両院協議会が審議を終えていたら、知事訪米が“無駄足”になっていた恐れもある。

 一方、今回の訪米で一筋の光も見えた。玉城知事が写真を多用した英文の資料を用い、辺野古新基地建設の現場で軟弱地盤や活断層の存在があることを明示し「万が一完成したとしても維持管理費は米国持ちだ」と、予算権限を握る議員らに示した。「反基地」という理念ではなく、理屈で米側のデメリットを示したことで、複数の議員から「自分でも調べてみたい」との言質を引き出した。

 「辺野古移設が唯一の解決策」と譲らない日米両政府の通常の外交ルートには乗らない、県独自の対米外交を印象付けた。

 訪米の全日程を終えた19日、玉城知事は記者団に「県知事が米議員に対し『問題があり、計画を見直すべきだ』と直接訴えたことに意義がある」と胸を張った。だが、今回の訪米は米議会の審議遅れのために間に合ったが、時機を逸する恐れもあった。

 国防権限法案を読み込んで分析し、議員や補佐官らから早期に直接情報収集するなどして、最適な時期に知事訪米が実現できるよう準備していなかったのか疑問が残る。基地問題を担当する県知事公室や現場のワシントン事務所には「玉城県政の外交」を支える情報収集・分析能力の強化が求められている。
 (松堂秀樹)