きょう17日は沖縄そばの日。ソーキにテビチ、野菜など県内各地には多種多様な沖縄そばがあり、今や大人から子どもまでが親しむ県民食といえる。南風原町新川の「yu―i FACTORY(ユーイファクトリー)」は県内で唯一、防除対策で駆除された「ハブ」から、だしを取った「82(ハブ)そば」で注目を集める。猛毒を持ち危険で厄介者と知られるハブを食材として利活用し、月に一度の第三土曜日に40食限定で店舗横の「プレ82」で提供している。
幸地賢尚代表(42)は「厄介者として扱われてきたハブを使って、沖縄ならではの物を作りたいと取り組んできた。素材として活かされるハブを楽しんでほしい」と丼とハブに情熱を注ぐ。
ハブって食べられるの?
澄んだ黄金色のスープにこしのある麺。見た目は変哲のない沖縄そばだが、スープを一飲みすると、ほのかに「土のような香り」が鼻を抜ける。独特な風味に誘われ、スープを飲み干し丼を空にする客は少なくない。南風原町の「ユーイファクトリー」は県産のハブを食材にした「82(ハブ)そば」を提供している。本業はそば屋ではない。ハブ革を扱う革製品専門店だ。幸地賢尚代表は「厄介者と駆除されてきたハブだが、捨てるところはほとんどない。沖縄の素材として有効活用ができる」と期待を膨らます。
独学でハブをハブ革に
同社は県内6市町村で防除対策のため殺処分となったハブを買い取り、ハブ革をあしらった財布やかばんなどの製造、販売を手掛ける。県内で唯一、原皮からハブ革に加工する「なめし」の製革技術を確立し、2008年に店をオープンした。幸地代表は「ハブが身近にいながら、沖縄にハブ革を生産する会社がなかったことに驚いた」と話す。県衛生環境研究所や全国の製革所などを回り、独学で研究を重ねてきた。
ハブっておいしいの?
コロナ禍の2020年ごろ、これまで廃棄していた「身」の利活用に取り組んだ。「ハブを加工する際に熱を通すと、いい匂いがしていたことから、そばだしにしようと思い立った。純度100パーセントのだしは、癖が強すぎて食べられなかった」と振り返る。毒のある頭を取り除いた厳選したハブ約10匹の身を一晩掛けて煮込み、うまみを抽出。カツオや昆布だしなどと合わせ、ほのかに樹木や土の香りがする野性味あるスープが誕生した。試行錯誤を重ね、完成まで約1年半を要したという。
毎月第3土曜だけオープン 限定40食
毎月第3土曜日、工房件店舗隣りの「プレ82(ハブ)」で限定40食を820円で提供する。そばのほかにハブだしで炊いたジューシーやハブの煮付けも人気だ。9月24日、友人と訪れた男性客は「獣臭(けものしゅう)を感じるかと思ったが、あっさりしている。沖縄を感じる味」と舌鼓を打つ。親子で訪れた女性客は「一口目に『ん?』と感じたが、食べるにつれて癖になった。ハブ酒のコーレーグースーも刺激的だ」と話す。この日、そばをおかわりし2杯食べた息子は「一度はハブを食べてみたい思っていた。思った通り、おいしかった」と満足げだった。
探究心はもはや「ハブ中毒」
完売しても沖縄そばの提供は赤字だと明かす幸地代表。「もったいないから始まり、たくさんの魅力に気付かされた。身近に生きるハブの良さを知ってもらい、沖縄の素材として長く親しまれるよう取り組みたい」とハブへの探究心は中毒だと笑う。「82そば」は同社のSNSで要予約。10月の営業日は19日。
そもそも「沖縄そばの日」とは?
10月17日は「沖縄そばの日」。
公正取引委員会によってそば粉を不使用でも「沖縄そば」と名乗ることが認められたことを記念し、沖縄生麺協同組合が1997年に制定した。認められたのが78年10月17日。
沖縄そばは小麦粉にかん水を加えて作る「中華麺」に分類される。豚骨やかつおだしのスープに三枚肉やかまぼこなどの具材を盛り付けた沖縄を代表する料理の一つ。
めん類は琉球王朝時代に中国から伝わったとされ、1902年4月9日付琉球新報に掲載された「支那そば」の開店広告が、沖縄そばに関し残る最古の記録とされている。沖縄戦では多くの店が焼失したが、収容所では配給を使い食べられたという。72年の日本復帰後は「和そば」と区別するため「沖縄そば」の名が定着した。
復帰後は日本の法律が適用され「そば」の名称には原料の3割以上がそば粉でなくてはならない。76年に公正取引委員会は沖縄そばに対し「『そば』と表示してはならない」と注文を付けた。
長年親しまれた名を残し食文化を守るため、生麺組合役員らが公取委との粘り強い交渉の結果、78年10月17日に「沖縄そば」が認証された。全国麺類名産・特産の認定を受け、優れた食品であることも証明され、87年には県外市場への本格参入も認められた。
「沖縄そば」は多くの関係者の力によって危機を乗り越え、全国でも親しまれる料理に発展したといえる。17日の沖縄そばの日は、歴史に思いを巡らせ、そばをより一層おいしく食す日となりつつある。