辺野古移設中止へ玉城県政が米国で今後やるべきことは… 〈玉城県政の外交・米議会訪問後の展望〉下


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ウィーマック下院議員(中央)に辺野古新基地建設について説明する玉城デニー知事(右から2人目)=18日、ワシントン市内(沖縄県提供)

 玉城デニー知事の訪米中、米政界は大きく揺れていた。10月6日、トランプ米大統領はシリア北東部から米軍の撤退を発表。それに伴いトルコは安全地帯の確保を理由に、米国を中心にした連合軍に参加し、過激派勢力「イスラム国」(IS)の掃討作戦を担ってきたクルド人民兵組織への攻撃を開始した。米議会の超党派の議員は知事がワシントンに到着した15日、撤退決定に反対する決議案を下院に提出。決議案は翌16日に共和党からも多数が賛成に回り、可決された。

 「こんな時期に、知事は一体何をしにワシントンに行ったのか」。日本政府関係者の一人は、米議会や政府がトランプ大統領の決定に伴うトルコのシリア侵攻への対応に追われるさなかの知事訪米に疑問を示した。

 一方、在ワシントンの日本メディア関係者からは意外な声が上がった。「シリアからの撤退も含め、トランプは過去の経緯を無視して独断で重要事項を発表する傾向がある。可能性は低いが、トランプ大統領なら何かきっかけがあれば『在日米軍を撤収させる』と言いかねない」と“乱心”の可能性を指摘した。

 玉城知事は今回の訪米で国防総省国防長官府筆頭部長東アジア担当のメアリー・ベス・モーガン氏、国務省日本部長代行のテッド・シーガー氏と会談した。政治任用ではない官僚の2氏は、玉城知事が辺野古移設見直しを訴えたことに対し、既に日米合意した「辺野古移設が唯一の解決策だ」との認識を示したという。

 ただ、両省は過去に議会の動きに衝撃を受けた経験がある。2011年に当時の上院軍事委員会のレビン委員長とマケイン筆頭理事が突き付けた「辺野古移設見直し」だ。

 「現行計画を調査すること」。当時可決した12会計年度の国防権限法には、現在審議されている20会計年度の国防権限法案の上院案に盛り込まれた内容と同様の「注文」が明記された。調査するのは「第三者機関」と指定された。

 当時、県内では辺野古新基地建設見直しに米議会が動いたことへの期待が高まっていたが、第三者機関として国防総省が委託したのは、日本政府が多額の寄付を行ってきたシンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)だった。

 CSISは「アーミテージ・ナイ報告書」が“お披露目”されるシンクタンクとして知られる。日本の外交・防衛政策が報告書の要求に沿った形で策定されることから事実上の「指南書」として扱われ、防衛省などの資料でも引用される。将来の首相候補ともささやかれる小泉進次郎環境相も一時在籍したほか、副理事長のマイケル・グリーン氏が安倍晋三首相と近いことで知られる。

 CSISが提出した報告書は大方の予想通り、日米が合意した辺野古移設を強く支持するものだった。それ以降、普天間移設計画見直しに関する議論は米議会内で徐々に下火になっていった。

 現在、上下両院協議会で審議している国防権限法案の上院案の条項の一つに「米軍を受け入れる国の政治的支援や地域社会、住民の支援に関する評価」の提出が明記されるが、調査機関は指定されていない。

 国防権限法案に「辺野古」の文言はないものの、玉城知事は今回の訪米で「県民投票で明確に『反対』の民意が示された」と沖縄で辺野古移設に対する根強い反対があることを直接、面談した上下両院協議会のメンバーに伝達した。

 仮に、県の期待通りに上院案の「調査義務」の条項が残った場合、日米両政府にとって都合のいい、知事の伝達内容と矛盾する調査報告書が提出されることはないか。

 玉城県政は訪米で満足することなく、報告書の作成機関が、現行計画を進めてきた国防総省自身や日本政府寄りのシンクタンクとならないか注視しつつ、客観的な調査を米議会に訴えていくことも求められている。
 (松堂秀樹)