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参拝者2万人→36万人に 世界遺産・斎場御嶽 聖地保全と観光の共存をどう図るのか 〈熱島・沖縄経済 第2部〉16


この記事を書いた人 Avatar photo 平安 太一
国内外から大勢の観光客が訪れる斎場御嶽=18日、南城市

 琉球王朝時代から聖地としてあがめられ、今も多くの参拝者が足を運ぶ南城市の斎場御嶽。2000年に世界遺産に登録されると、国内外から多くの観光客が訪れるようになった。観光客の増加に伴いさまざまな課題が表出する中で、地域住民や観光協会、行政などが意見を交わす関係者会議が設置された。古くから伝わる祈りの場所を守り、持続可能な観光を実現する取り組みが動き出している。

 斎場御嶽を訪れた人は12年の43万8千人をピークに、16年は40万6千人、17年は37万7千人、18年は36万1千人と減少傾向にある。一方で世界遺産登録前は2~3万人程度しか訪れていなかったといい、南城市の担当者は「人数が減少していると言っても、年間36万人が来ている。すごく多いと感じる」と語る。

 斎場御嶽に入る前には注意事項を紹介するビデオを上映しており、近年はマナー違反や大きなトラブルは発生していないという。それでも祈りの場所が観光地化することを懸念する意見は根強く残る。

 斎場御嶽に近接する、南城市知念久手堅区の新里善和区長は「本来は祭事や祈りの場所なのに、観光目的だけで訪れる人も多い」と語る。聖地としての意味を理解せず、ツアーの一環で訪れる観光客は滞在時間も短く、御嶽を汚したり、立ち入り禁止の場所に入ったりするケースが見られるという。新里区長は「祈りと感謝の気持ちを抱き、聖地を大事にしてくれる人に訪れてほしい」と願う。

 斎場御嶽や周辺エリアが抱える課題を整理し、解決に向けた施策を議論するために本年度、地域住民らを交えた関係者会議が組織された。年度内に5回の会合を開き、課題解決にとどまらず、祈りの場所にふさわしいインフラ整備についても方向性を示す。住民や行政関係者のほか、斎場御嶽周辺の商業関係者などがメンバーとして加わった。

 新里区長は「課題を解決して斎場御嶽を理解するファンを増やせば、地域に住みたいと考える人も出てくるはずだ」と期待する。斎場御嶽を中心に周辺も一体となった活性化ができれば、過疎化など地域が抱える課題も解決できると見ている。新里区長は「聖地を保全しながら必要な環境整備を進め、地域も元気になるようなプラスの循環ができてほしい」と力を込めた。

 関係者会議で議論された内容は、斎場御嶽周辺エリアの景観計画策定にも生かされる。南城市観光商工課の外間明課長は「斎場御嶽は地域にとって欠かせない文化遺産だ。地元の人たちは誇りに思っている」と説明する。琉球王朝時代から続く聖地として、ほかの観光地と差別化することも視野に入れる。外間課長は「地元の人と協力しながら未来を見据えた議論をする」と決意を示した。

(「熱島・沖縄経済」取材班・平安太一)