健康や福祉、どう守る?【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】3


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 貧富の格差や特定の集団に対する差別や偏見が健康にも悪影響を与える「健康格差」が地球規模で広がっている。持続可能な開発目標(SDGs)の目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を保障し、福祉を増進する」。妊産婦や乳幼児の死亡率を下げる、エイズや結核など感染症の終息、交通事故や環境汚染による疾病の減少などを盛り込む―などの課題の解決が求められている。県内でも、貧困が問題になる中で長寿県から転落。地域のつながりが希薄になり、孤立して子育てせざるを得ない家庭もある。解決への道筋を探し、関係者の取り組みを聞いた。

長寿県復活、社会環境整備から

高倉 実さん 琉球大教授

「長寿復活には社会環境の整備が不可欠」と話す琉球大の高倉実教授=西原町の琉球大

 世界に名をはせた健康長寿県・沖縄が2000年、その地位から転落した。男性の平均寿命は全国一から26位に下がり、衝撃をもって「26ショック」と呼ばれた。背景として指摘されたのは揚げ物など脂質の多い食生活や過剰な飲酒、運動不足などに起因する生活習慣病。県を挙げて運動や食習慣の改善が呼び掛けられたが、続く10年の調査では女性もトップを維持できず3位、男性はさらに下がって30位となった。

 琉球大医学部で公衆衛生に携わる高倉実教授は「望ましいライフスタイルを取らない背景には、社会的要因がある」とし、生活を改善できない原因にこそ注目すべきだと指摘する。格差が広がる中、お金がなければ値段の張る野菜は買えず、長時間労働では運動する時間も取れない。不安定でストレスの多い生活は過剰なアルコール摂取など健康に良くない生活習慣につながる。

 実際、経済的な格差が健康状態に影響することは世界的に明らかにされている。低所得層ほど野菜の摂取量が少ない。脂質の摂取量は多く肥満が多い、歩く歩数が少なく運動習慣に乏しい、寿命も短い―といった具合だ。個人に生活改善を求める健康教育だけでは限界があることが明らかになり、厚生労働省が進める「健康日本21(第2次)」には、健康格差の縮小がうたわれている。

 ただ、沖縄県が長寿を誇っていた頃も、県民所得は全国の7割程度で格差はあった。高倉教授は「仮説だが」と前置きして「『ゆいまーる』など人と人とのつながりが、格差の悪影響を補っていたのではないか」と見る。地域のつながりが崩壊したことで格差の影響がより明確に表れるようになったのでは―という見方だ。

 高倉教授の研究では、親の経済状況が厳しい高校生ほど、飲酒や喫煙といった問題行動が多い。しかし、「学校が好き」「学校は居心地がいい」と感じる生徒が多い高校では、その影響を打ち消して、飲酒や喫煙の割合が低くなった。「集団の力、特に学校の力は大きい」と言う。沖縄に代わって長寿県となった長野県も、保健師などが丁寧に地域を回り、人のつながりの中で塩分摂取量の低減などに成功している。

 長寿県復活のためには「個人に呼び掛ける健康教育だけでなく、その上流にある社会的な環境づくりが不可欠だ。その認識を広げなければならない」と高倉教授は指摘した。


安心して子育てできる地域に

産前産後サポート事業 でまえ♥だいすき うるま

 安心して子育てできる地域に-。核家族化や地域のつながりの希薄化などで妊産婦や子育て中の家族の支援が課題になっている。特に出産後はホルモンバランスの変化も大きく、心が不安定になることも。妊娠中から産後や赤ちゃんについて知ってもらい、育児の孤立化を防ごうと、うるま市は2019年度から県内初の産前産後サポート事業に取り組む。

 市産前産後サポート事業「でまえ♥だいすき in」は、「市子育て世代包括支援センターだいすき」が市内3地区の子育て支援センターで月計4回交流会を開催する。予約不要で入退室も自由。妊娠中から生後3カ月以内の子育て中の女性だけでなく夫やパートナー、祖父母らも参加できる交流会だ。助産師や母子保健推進員らによる子育ての話から先輩ママの体験談、育児相談まで情報交換や仲間づくりができる貴重な場所になっている。

子育て世代が安心して暮らせるうるま市を目指して支援事業に取り組む子育て世代包括支援係の(左から)棚原寛昭さん、金城絹子さん、大城桃子さん=14日、うるま市役所

 当初は周知が課題だったが、スーパーでのチラシの掲示やコミュニティーFMでのPRなどで認知されるようになった。月平均10~20組が参加するという。

 事業を担当する市こども部こども健康課子育て世代包括支援係で社会福祉士の棚原寛昭さん(39)は、自身も2児の子育て真っ最中。新米パパに声を掛けながら男性も参加しやすい雰囲気づくりを心掛ける。「始めたばかりの事業なので、子育て世代が安心して暮らせる仕組みを工夫していきたい」と話す。

 市は、出産直後の女性をサポートする産後ケアも始めた。母子手帳の交付時に市独自で作成した「うるま市こどもの健康応援BOOK だいすき」も配布し、さまざまな情報を提供する。

 うるま市の事業を参考に、八重瀬町も8月から産後ヨガ・妊産婦交流会を始めた。子育て世代が安心して暮らせる地域を目指し、自治体は切れ目のないきめ細かな支援策を模索している。

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること

 世界が直面しているさまざまな課題をみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。経済、社会、環境の三つの側面のバランスを取り、人間にとっても地球にとっても、よりよい未来を目指して、「貧困」「教育」など17の分野で169の目標を立てている。

 大切な理念は「誰一人取り残さない」。誰かを犠牲にしたり無視したりすることなく、すべての国のすべての人たちがそれぞれの役割を持って、世界を変革しようとうたっている。