幹部の暴走止められない組織 責任があいまいな一部事務組合の弊害 〈検証・島尻消防〉下


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次から次へと不祥事が発覚した島尻消防組合消防本部。告発があった内部資料と外観のコラージュ

 「あなたたちには話さない。第三者委員会で話す」

 4日、島尻消防組合消防本部は不穏な空気に包まれていた。この日、本紙は島尻消防で10月に起きた交通事故での救急記録の書き換えについて、当日勤務していた職員の証言を報じた。規定の書き換えや賭博横行など、連日にわたって島尻消防の不祥事が報じられる中で明らかになった新たな問題。島尻消防の幹部は出勤していた職員ひとりずつに聞き取り調査を行った。調査に応じた職員の一人が発したのが冒頭の発言だったという。

 「幹部に話しても外部に証言がねじ曲げられて伝わる可能性がある。気持ちはよく分かる」。別の職員は本紙の取材にこう語った。調査対象となったこの職員は幹部に「書き換えの指示があった」とはっきり伝えた。同様の証言をした職員は複数いたという。

 「これまで現場の声に一切耳を貸さずにやってきた上層部への不信感は相当なものだ」。取材に応じた職員は発言を拒否した職員の気持ちをおもんぱかり、こう訴えた。

 島尻消防は、南城市と八重瀬町が共同運営している一部事務組合の組織だ。一部事務組合の消防組織は監督組織が存在せず、適切なマネジメントが機能しにくい土壌が生まれやすい。監督権者が不在のため、迅速な意思決定がしづらく、住民の目も行き届きにくいという課題もある。

 山口県の宇部中央消防署では1月、消防署員の松永拓也さん=当時(27)=が自殺した。外部調査委員会は、職場の不祥事に抗議の意を示すためだったとの報告書をまとめた。同消防も島尻消防と同じ、一部事務組合組織だった。

 県内でも一部事務組合組織の不祥事が度々明らかになっている。

 1997年、東部消防組合本部で職員の給与問題が発覚したのを皮切りに、職員の内部告発などで数々の不祥事が明らかになった。当時の東部消防は与那原、佐敷、南風原、西原の4町で構成していた。

 2017年には、南風原と八重瀬の2町の水道事業を担う南部水道企業団で男性職員3人に対し、条例の基準を超えた昇格(飛び級)を行っていたことが露呈した。

 行政法が専門の井上禎男琉球大学法科大学院教授は「一部事務組合は責任の所在が曖昧になり、幹部が暴走すると不正が横行する状況になる」と指摘する。「自治体が必要な見直しをやっているかどうか。見直しをしないままに漫然と放置しているケースもある」

 今回、内部告発などが相次いだ島尻消防の不祥事の数々は、旧弊に縛られた組織のゆがみからだった。第三者委員会の設置は決まったものの発足時期は未定。組織浄化への道のりはまだこれからだ。 (嘉数陽)