「個」に合わせた教育とは?【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】4


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 紛争により学校に通えない、家事を手伝うために勉強時間が削られる、女性だからという理由で進学を阻まれる―。世の中には本人の意思に反して教育の機会が奪われている人がいる。持続可能な開発目標(SDGs)の目標4は「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」。県内ではICT(情報通信技術)を駆使して離島のハンディキャップ克服を目指したり、外国ルーツの子も日本で学べるように日本語を教えたりと、誰でも、どこにいても質の高い教育を受けられるようにする取り組みが広がっている。

ICT活用で離島苦解消へ

毎週「オンライン学習塾」 渡嘉敷村教委

 ICTで島ちゃび(離島苦)解消―。渡嘉敷村では小中学生がICT機器(タブレット)を使って、習熟度に応じた学習を進めることができる。村教育委員会が児童生徒の「もっと学びたい」という意欲に応えようと、毎週水曜日に「オンライン学習塾」を開催。島外から講師を1人招いて、子どもたちの普段の学習を手助けしている。子どもたちにとってはICT機器、保護者にとっては“無料”塾という魅力もあり、開校からまだ2カ月だが、かなり好評だ。

 渡嘉敷を含む離島地域の小中学校では、複式学級による学習スピードへの影響や、補修に役立つ学習塾の不在などが課題となっている。そこで県は2014年度から「ICT利活用による離島学力向上支援実証事業」を始めた。インターネットで東大生と中継をつなぎ、渡嘉敷、座間味、波照間島の児童生徒を対象としたオンライン塾「東大NETアカデミー」を開校。与那国町が町事業として取り組んでいたもので、同事業は渡嘉敷村でも広く受け入れられた。

ICT機器(タブレット)を使った「オンライン学習塾」で、自分の習熟度に応じた学習に取り組む子どもたち=4日、渡嘉敷村中央公民館

 渡嘉敷村では16年度から一括交付金を活用し、同取り組みを村事業として昨年度まで継続させた。本年度10月からは、一人一人がタブレットを学習器具として使用し、自分のペースに合わせた学習に取り組んでいる。タブレットは持ち帰って自宅で使うこともできる。

 「息子が『楽しい』と言って通っている。もっと勉強したいという意欲を大事に育ててくれる」と話したのは國仲貴光さん(48)=国立沖縄青少年交流の家職員。息子の昊(こう)さん(12)=渡嘉敷小6年=と、受験生の真白(ましろ)さん(14)=渡嘉敷中3年=が通っている。「東大NETは他校の同級生と一緒に勉強するので競争心がある程度生まれた。10月から始まったタブレットでの学びは、自分のペースでできる」。教育面での島ちゃびは「特に感じない」と否定した。

 質の高い教育は海を越えた。現在は一括交付金を利用している。島民たちからの「継続運営」の期待に応えられるか。


外国ルーツの子に日本語を

天願 千里佳さん 北谷町立北玉小 日本語学級担任

 国際化の波は教育現場にも広がっている。県内の学校にもさまざまな国にルーツを持つ児童・生徒がいる。北谷町立北玉小学校(山城亨校長)で日本語学級を受け持つ天願千里佳さん(32)は、さまざまな母語を話す児童に対し、日本語で日本語を教える取り組みを進めている。

 夏休み後に香港から転校してきたばかりの6年生には食べ物の絵とお箸、ナイフ、フォークを見せながら「何で食べますか」と質問。日本語が分からなくても視覚的に理解しやすいよう工夫する。楽しみながら学べるようにと、かるたなどの教材も手作りする。

香港から来た6年生のシャルロットさん(右端)に食べ物の絵を見せながら日本語を教える天願千里佳さん(右から2人目)=3日、北谷町立北玉小学校

 少し分かるようになってきた2年生には動詞を「~してください」と命令形に変える方法を教える。「歌います」のように「ます」の前が「い」の場合は「ます」を消して「って」に変える。「聞きます」のように「ます」の前が「き」の場合は「いて」を使う。日本語が母語なら意識せずとも言い換えられるが、そうでないと文法から教えなければならない。

 「『聞く』『話す』だけではなく『読む』『書く』の能力を伸ばすには文法も必要」。天願さんは児童に日本で勉強していくための能力を身に付けてもらうため、工夫を凝らす。

 天願さんは「日本で育って日本語を話せても、家庭で母国語を使っていたら日本語を認知する能力が低い場合もある」と指摘する。日本語をきちんと学ぶ機会がないまま、単に「学習能力が低い」と見られている子がいるのではないかという懸念はぬぐえない。

 県内では日本語学級がある学校は限られており、支援は十分とは言えない。「外国にルーツのある子も将来、日本で働く可能性はある。もっとその子たちに目を向けて、体制を整えないといけない」と話した。


大学進学率、全国と差

 2019年3月卒の県内高校生に占める大学等進学率は40.2%で、初めて4割を超えた。しかし、40%は全国だと約25年前の水準だ。19年の全国の大学進学率は54.7%で、県内との差は14.5ポイントある。

 県内の大学進学率は10年以降の10年間で3.6ポイント上昇。全国はその間、ほぼ横ばいで推移しており、差は徐々に縮まっている。

 進学率の格差は学力だけでなく親の経済力も影響すると指摘されている。県内では学力がありながらも大学進学を諦める生徒が多いとみられている。

 県は子どもの貧困対策計画で21年度までに大学進学率を45%まで引き上げる目標を掲げており、奨学金などの支援策を講じている。

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること

 世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。

 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。「貧困」「教育」など17に整理し、目標を立てている。

 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを犠牲にしたりすることなく、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。

 視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。