「いい親になりたい」から変容する親たち 虐待相談件数増加率1位の沖縄 その背景にあるものとは…


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子ども虐待について「背景にある貧困や孤立などの構造に目を向け、保護者も支援することが必須」と話す長谷川俊雄氏=那覇市牧志のkukulu

 連続講座「『子どもの人権』『子どもの権利』を守る・支援する・創る」が那覇市牧志の子どもの居場所kukuluで始まっている。NPO白梅学園大の長谷川俊雄教授が講師を務め、第2回は11月末、子どもの虐待をテーマに行われた。

 山梨県や神奈川県の児童相談所で約20年、スーパーバイザーとして職員に助言をする長谷川教授は「児童虐待は貧困と孤立の問題」と断じる。虐待行為の背景にある、貧困や孤立、被虐待経験などの構造に目を向け、親が愛情を持って子育てに向き合えるよう環境整備することが不可欠だと繰り返した。各種データを用いて説明した。

 少子化で子どもの数は減っているが、児相の相談対応件数はうなぎ上りに増加。特に沖縄県は2018年度、前年度からの増加率が159%(速報値)で全国1位だった。「虐待を認識する市民感覚と通報があってはじめて対応でき、数も増える。増えた分、対応する職員が必要だ」とし、特に中核市である那覇市への児相設置を求めた。

 厚労省や警察の統計によると児童虐待の58%、虐待死亡事件の88%は、実父母が加害者だ。「親は愛情豊かに子どもを育てるべきとされるが、それには条件がある」とし「全員にその環境は整っていないことを認識すべきだ」と力を込めた。特に面前DVを含む「心理的虐待」が増えたことから「すさまじい夫婦げんかをしている家庭がたくさんある」と指摘した。

 さらに虐待を受けた子どもの家庭には、貧困、孤立、不安定就労などの特徴が明確に現れるという。児相では解決できない、本質的な困難から虐待が湧き出る一方、職員は人手が足りない激務で「新人が配置されると必ず心を病む」とし、実態に合った体制を求めた。北米は「児童相談所」ではなく「家族総合相談所」があり、多様な機能を持たせて効果的な支援を実現していると説明した。

 重篤な虐待の背景には(1)低所得(2)社会的孤立(3)ストレス、疾病、障害―が重複している場合が多いという。ただその背景があっても虐待が起きなかったり、早期の発見・相談につながるケースはある。その条件として、気に掛ける・見守る・否定的評価をせず悩みを理解してくれる―といった他者(専門職)の存在を挙げた。「一人ぼっちにしたら駄目。いろんな苦労をして人を信頼できなくなった父母に、人とつながりたいという意欲をどう持ってもらうかだ」と訴えた。

 実際の虐待死事件を新聞記事で振り返った。「いい親になりたい」と丁寧に子育てをしていた親たちが、孤立し変容していくさまを追いながら「変わっていく親たちに対して社会は何もできなかった。支援があればそうならずに済んだ」と親への罰だけでは解決しないと指摘。「加害者になった親は『支援が必要』と見る必要がある」と話した。

 連続講座最終回となる第3回は1月24日午後7時から、「子どもの権利条例から考える支援」の題で行われる。参加無料。問い合わせはb&gからふる田場(電話)098(989)1770。