ワクチン接種、岐阜県と静岡県が実施することにしたわけとは…


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豚コレラ感染防止に向けたワクチン接種作業の様子=2019年10月25日、岐阜県中津川市の農場(岐阜県提供)

 県内での豚コレラ(CSF)の発生に関連し、ワクチン接種の必要性が議論を呼んでいる。全国では15日現在、15都府県で接種されたほか、2県で接種が決まっている。海外輸出の制限などデメリットもある中で、ワクチン接種を実施した自治体では、養豚業界の強い要望を受けて実施に踏み切った事例が多い。

「養豚農家の総意」

 2018年9月に国内で26年ぶりに豚コレラの発生が確認された岐阜県。県は防護柵の設置や消毒薬の配布などで防疫に努めたが、感染の広がりは終息の気配を見せず、養豚業界からワクチン接種を求める声が日に日に強まった。

 一方、国はワクチンを打つことで、国際獣疫事務局が定める「清浄国」から日本が外れる可能性を危惧し、ワクチン接種に消極的だった。

 岐阜県では、国がワクチン接種の方針に転換することになる19年10月までの約1年間で、県内の飼養頭数の6割に当たる約7万頭の豚が殺処分されることになり、壊滅的な打撃を受けた。感染は衛生管理の水準が高い農家にまで広がっており、ワクチン接種を求める声は「県内養豚農家の総意」(県家畜防疫対策課)というほどに高まった。

 岐阜県は国の方針転換とワクチン接種推奨地域への指定を受け、県内での接種地域や必要数量などを示した「ワクチン接種プログラム」を直ちに策定した。昨年10月25日に初回接種を実施し、それ以降は同県での新たな発生はない。岐阜県では接種後も、豚肉の市場価格の変化や目立った風評被害はなかったという。

 岐阜県の担当者は「接種後、発生はゼロになり、接種して良かったと考えている」と述べ、適切なワクチン接種プログラムに基づいて接種を進めれば、接種豚と豚コレラ感染豚が混同するというデメリットは防止でき、感染拡大を防げると指摘する。担当者は「岐阜県は国の方針の影響で接種したくてもできなかった。沖縄は接種の選択肢がある。後は県の判断だ」と語った。

豚感染前に接種

 静岡県では、豚への豚コレラ発生は確認されていないが、19年10月18日に県内で野生のイノシシへの感染が確認された。隣接する愛知県、長野県、山梨県ではすでに豚コレラが発生していたこともあり、県は養豚関連団体から「豚コレラが県内に広がる前に、ワクチンを接種してほしい」との要請を受けていた。

 野生イノシシの感染を受けた家畜へのワクチン接種について、静岡県の担当者は「殺処分による生産農家の精神的ダメージが予測できたため」と説明する。ワクチン接種による移動制限に伴う販売減少の見込み額を2億7900万円と試算。県内には豚を定期的に海外輸出している業者はなく、県外への出荷も金額的に大きくないなどの意見から、養豚業者にワクチン接種に反対する声はほぼなかったという。

 即断で、発生確認から約2週間後の11月3日に初回の接種を行った。静岡県の担当者は、感染を防げることが最大のメリットだと指摘し、「移動制限などのデメリットを考えた上で、メリットの方が大きいと判断できれば、接種をためらう必要はないだろう」と述べた。
 (石井恵理菜、外間愛也)