【記者解説】豚熱ワクチン接種へ舵をきったが課題は山積する沖縄


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埋却地で埋却溝にブルーシートを敷く作業員ら=12日午前4時ごろ、沖縄市内(沖縄県提供)

 豚熱(CSF、豚コレラ)のワクチン接種に慎重だった県が実施に向けて踏み込んだのは、8日に感染が確認されて以降、感染経路の特定や原因究明が進まないうちに10日間で4例目まで発生場所が増えてきたことがある。

 県が発生農場から10キロ圏内にある養豚場に感染がないか検査を進めているが、発生農場と人や豚の行き来などがある関連施設でも調査が必要になるほか、県内全域から通報がある豚の異常に対応した検査にも追われている。現状で、どれくらいの規模で感染が広がっているのかなど実態の把握が追い付いていない。

 24時間体制で進める現場の防疫作業も疲労の蓄積があり、時間がたつにつれて人員や埋却地の確保という課題が大きくなってくる。

 これ以上発生が続けば防疫作業や検査体制に支障が生じ、感染の拡大を食い止められなくなる恐れもある。早期の終息に向けてワクチン接種の準備開始へと舵(かじ)を切った格好だ。

 一方で、ワクチン接種の方向性などを関係者で議論する「県CSF防疫対策関係者会議」の初会合は、22日の開催となる。早急な対応を求める畜産関係者の不満は大きく、「いつでもワクチンを打てるよう早めの体制を整えてほしい」(稲嶺盛三県養豚振興協議会会長)と要望が強まる。

 ワクチンの実施までに解消しなければならない課題も多い。接種は主に県の獣医師である家畜防疫員が担うが、現在も殺処分などの初動防疫で県外から獣医師の応援を受けており、獣医師が不足する県内で要員の確保に難しさがある。

 ワクチンは備蓄できないため、接種を決めても即時に打てるとは限らない。接種の優先順位など綿密な計画も必要となる。一度ワクチンを接種すると終了まで10年単位の年月がかかる見込みで、接種に要する農家の経済負担なども検討が急がれる事項だ。
 (石井恵理菜)