<経済アングル>豚熱ワクチン接種へ 感染予防へ期待大 防疫体制の強化急務 衛生管理低下の懸念も


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県CSF防疫対策関係者会議の冒頭であいさつする玉城デニー知事=22日、県庁

 県内での豚熱(CSF、豚コレラ)の感染拡大を受け、玉城デニー知事が22日、ワクチン接種の導入を表明した。今月8日にうるま市で1986年以来の感染を確認すると、発生は沖縄市内の養豚場にも広がり、計7カ所の養豚場で9千頭以上の豚が殺処分された。ワクチンを導入すると豚熱の発症を抑制する効果が期待できる一方で、農家が安心することで防疫体制がおろそかになるとの懸念も出ている。

 養豚関係団体や有識者らで構成する22日の「県CSF防疫対策関係者会議」は非公開で実施され、県によるとワクチン接種を推進する方針で一致し、反対の意見は出なかったという。豚熱に感染すると飼育する豚全てが殺処分対象になるため、養豚業者にとって大打撃になる。会議ではワクチン接種のデメリットも説明されたが、接種の方針は揺るがなかった。

即日決定に驚き

 県内では15日以降に新たな感染は確認されておらず、農林水産省などでは、会議でワクチン接種に慎重な意見が出るとの見方もあった。県が即日で接種を決めたことに対し、関係者は驚きを持って受け止めた。

 県内の飼育頭数20万6828頭(2018年12月末現在)の4・4%を占める豚が殺処分される事態になっており、関係団体は迅速なワクチン接種を強く望んでいた。会議終了後の記者会見で、JA沖縄中央会の大城勉会長は「危機的な状況で農家の不安は大きい。養豚業の振興や農家の経営に大きく影響する」と険しい表情で語った。

 感染ルートが解明されていないことも不安材料の一つとなっている。県内で感染を確認した豚熱ウイルスは、国内から侵入した可能性が高い。ただ、国や県が空港などで水際対策を進める中で、どのようにして沖縄に入ったか明らかになっていない。今後はうるま市以北に生息する野生のイノシシが感染を広げる可能性もある。

 長嶺豊農林水産部長は「沖縄は多くの観光客が行き来する。(ウイルス保有の)肉類が持ち込まれるリスクも高い。農家だけでコントロールできず、ワクチンで拡大を防ぐべきとの声は多かった」と説明する。

課題も山積

 接種に向けて克服すべき課題も残る。ワクチンを打つことで感染リスクが低下すると、養豚場の消毒など農家の衛生管理が徹底されなくなるとの意見がある。今回の県内での感染は、えさとして豚に与える食品残さを加熱処理していなかったことなど、衛生管理基準が順守されなかったことが原因との指摘もある。

 接種によって豚熱の拡大防止が期待される一方、アジアで感染が広がるアフリカ豚熱(ASF)にはワクチンがなく、防疫を徹底する以外に侵入を防ぐ手段はない。JA沖縄中央会の大城会長は「ワクチン接種で安心するのではなく、さらなる衛生管理基準を農家に徹底する」と強調した。

 ワクチンは県が国から購入し、獣医師らが養豚場を回って接種を行う。農家は1頭当たり160円を手数料として支払うため、飼育頭数が多いほど負担は大きくなる。ワクチン接種で出荷制限などの対象になり、養豚業者の経営にマイナスの影響を与えることも考えられる。ワクチン接種で豚熱が終息に向かい、沖縄の養豚業を守ることができるのか。玉城知事は「農家を支えるために、しっかり取り組む」と支援策を進める考えについても強調した。 (平安太一)