観光客は増えたのにホテル業界は苦戦… 観光客1000万人時代到来の沖縄経済界に生じる“異変”とは


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
資料写真

 2019年は日韓関係の冷え込みによる韓国客の落ち込みや消費税増税、さらには沖縄観光のシンボルでもあった首里城が焼失する逆風がありながら、那覇港へのクルーズ船寄港回数が全国一となるなど、沖縄を訪れた観光客は続伸して暦年で初めて1千万人を超えた。だが肝心の観光業界では昨年から変調が生じており、かつての「薄利多売」に逆戻りするような経営環境の厳しさが進んでいる。

観光客1千万人超

 19年の観光客数を月別で見ると、日韓関係の悪化で韓国路線の運休が続いた影響から8月は前年の実績を下回ったが、それ以外の月は全て前年同月の観光客数を上回って推移した。

 特に大型クルーズ船を中心とした海路客は18年比11・4%増の130万9100人で、全体を押し上げる要因となった。県の担当者は「沖縄はアジアに近く地理的優位性があり、クルーズのツアーを組みやすい」と背景を分析する。

苦戦する県内ホテル

 そうした1年を通した観光客の増加に反して、日本銀行那覇支店の景況調査ではホテル稼働率が前年同月の実績を下回る時期が続いている。沖縄に進出する企業が増加し、大型ホテルから簡易宿泊施設まで、各種の宿泊施設の開業が相次いでいる影響だ。

 稼働率の低下から値下げに踏み切る宿泊施設も出始め、売り上げの減少を招いている。業界の好況感は乏しく、「供給過剰」の指摘も上がっている。

 石垣島でホテルを運営する関係者は「去年に比べて稼働率は低い」と断言する。観光客の動きは鈍くないが、ビジネスホテルや民泊の増加で宿泊客を奪い合う状況に陥っている。同関係者は「競争環境は非常に厳しい」と頭を抱えた。

 恩納村のホテル関係者は「韓国客減少の影響で稼働率は悪化した。しばらく悪い状況は続きそうだ」とため息をつく。民泊など割安な施設に観光客が流れている影響もあり、最近は20%近く宿泊料金を下げるホテルもあるという。

中小企業に薄い恩恵

 観光客の増加は県経済の好調さをけん引する原動力となってきたが、地元企業に十分な恩恵を与えていないとの指摘がある。ある観光事業者は「県外から進出したドラッグストアや免税店に観光客を持って行かれている。県内の企業は今の状況をもっと深刻に受け止めるべきだ」と訴える。

 ビジネスチャンスは増えるものの、資本力が弱い県内企業は人手不足への対応などの課題も抱え、収益の増加にまでつなげられていない。

 県内の金融関係者は「沖縄が素晴らしい環境にあることは確かだが、県内の中小企業が利益を十分に得られていないことも確かだ」と分析する。

 今年3月には那覇空港の第2滑走路の利用が始まり、沖縄観光は新たなステージを迎える。ただ、多数の人が行き来することで、豚熱(CSF、豚コレラ)や新型肺炎などの感染症が沖縄に入るリスクも高まる。複数の観光関係者は「観光客を呼び込むことも大事だが、それ以上に防疫など水際の対策も重要だ」と警鐘を鳴らす。

 沖縄観光1千万人時代を迎える中、オーバーツーリズムなど新たな課題に向き合う必要が生まれている。

 (中村優希、平安太一)