米PFAS法の成立危機に 下院通過もトランプ政権が抵抗するわけとは…


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 米国連邦議会で審議されている有機フッ素化合物の規制法案(PFAS法案)が、トランプ政権や一部議員の抵抗で成立が危ぶまれている。県内の米軍基地周辺の河川や浄水場でも高濃度で検出され問題となる中、米国の環境政策が必ずしも成功事例とは言えないことが明らかになっている。識者は「米国の議会動向を見て沖縄の事例に生かす必要がある」と指摘している。

取り組み遅れ

 連邦議会に法案が提出された背景には行政レベルの取り組みの遅れがある。米環境保護庁(EPA)は年内に飲料水の規制値を定めるとしていたが、実現していない。米環境団体が22日に公表した調査結果で、米国内の44カ所のうち43カ所の水道水が有機フッ素化合物で汚染されていることが判明した。うち34カ所は連邦政府や州の環境官庁からは汚染が報告されていない場所だった。

 有機フッ素化合物汚染が以前から問題となっているミシガン州選出のデビー・ディンゲル下院議員(民主党)は、連邦政府が問題を放置してきた経緯を批判しながら、法案提出を主導してきた。

 法案は包括的に有機フッ素化合物を規制する内容だ。(1)汚染者に原状回復義務を負わせるスーパーファンド法に基づき有害物質に指定すること(2)飲料水における規制値を全国統一で設ける(3)各地の水道事業体が汚染水の浄化技術を取り入れるため資金を提供すること(4)政府が消防士ら泡消火剤を使う人々に使用の最少化を指導すること―などがうたわれている。

 法案は10日に下院を通過した。今後、法律として成立するには上院を通過し、大統領の署名がなければならない。ディンゲル氏は自身の公式サイトで「私たち全員が人間の健康と環境を保護するために協力しなければならない。何もしなければ汚染が拡大する」と述べた。

拒否権発動を示唆

 トランプ大統領の弾劾裁判が本格化しており、上院での審議がいつ始まるか見通せない。さらに審議が始まっても共和党が多数を占めるため、否決される可能性がある。下院の採決でも共和党の8割は法案に反対した。議事録によると、共和党のジョン・シムクス氏は質疑で上院が法案を可決することはないとの見通しを示している。

 米ホワイトハウスは下院通過に先立つ7日、PFAS法案に反対する意見書を示した。米議会予算局は10年間で浄化だけでも3億ドルの費用が発生すると試算し、連邦政府は行政や民間の利害関係者の費用負担を懸念している。訴訟リスクや問題を含むルールづくりを強いられると主張し、拒否権発動を示唆している。

 有機フッ素化合物問題について米国の動向を追っている調査団体インフォームド・パブリック・プロジェクト(IPP)の河村雅美代表は「廃案になるとしても、国民に選出された立法府の議員が何を連邦政府に要求しているのか、あるべき対応はどういうものかを見ることが沖縄にとって大事だ」と指摘した。

 注目すべき点として「例えば、リスクの高い妊婦や幼児に合わせた安全水道法の基準を有機フッ素化合物にも適用することを求めている」と挙げた。

 一方で「厚生労働省や環境省の基準も米国のEPAを参考にすると思われる。米国での政策の遅滞やトランプ政権が環境制度を破壊している事実には注意する必要がある」と強調した。

(明真南斗)