不都合な「軟弱地盤」隠す政府 投票前に土砂投入 〈壁突く民意 県民投票から1年〉中


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米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関する集中協議の最後に会談する玉城デニー知事(左)と安倍晋三首相=2018年11月、首相官邸

 厳重な警備が敷かれる首相官邸。衆院議員時代にも要請などで訪れたことはあったが、比べものにならないほど張り詰めた空気が肌に突き刺さる。2018年11月、副知事と官房副長官の間で続けてきた辺野古移設に関する1カ月間の集中協議の締めくくりとして、玉城デニー知事は県民の思いを背に安倍晋三首相とのトップ会談に臨んだ。

 かつては同じ国会議員、知らない仲ではない。他の職員を退席させて2人きりの環境をつくった。

 「まずは工事を止めて話し合いましょう」

 玉城知事は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について工事停止を求めた。安倍首相は米国との約束などを理由に難色を示しつつも、「1日待ってほしい」と答えた。
 翌日に杉田和博官房副長官から謝花喜一郎副知事に連絡が入った。結局、工事を止めた上での話し合いは「できない」というのが政府の返答だった。

 その宣言通り、政府は18年12月に埋め立て海域への土砂投入へ踏み切った。県幹部は土砂投入を強行する背景に、年明けに埋め立ての賛否を問う県民投票が実施されるのを前にした政府の焦りがあるという見方を示した。

 政府は米国との約束である辺野古移設を完遂する意志を組織体制にも反映させている。埋め立て事業や法律に精通した国土交通省職員の沖縄防衛局への出向は16年から始まり、延べ14人に上る。次長2人のうち1人も国交省幹部だ。

 通称「埋め立て屋」と呼ばれる国交省港湾局の人材を取り入れてまで、辺野古の埋め立てに突き進む。その一方で、埋め立て予定区域の海底に広がる軟弱地盤の存在は長い間、認めてこなかった。

 県民投票まで1カ月を切った19年2月上旬、軟弱地盤が水面下90メートルまで達していることや、約7万本の砂ぐいを海底に打ち込む大規模な改良工事を検討していることが次々と報道される。

 軟弱地盤に対応するため設計を変更し直す必要があるという不都合な要素をひた隠し、土砂投入で工事はもう後戻りできないという既成事実化を図ろうとする政府のやり方が明らかになると、計画に対する疑問や反発が広がった。

 本紙に電話した那覇市の60代男性は「普天間飛行場を返還させるには仕方ないという立場だった。だがこんな難しい工事では何十年もかかって、早期返還は無理だ」と語り、辺野古移設に反対することを伝えた。

 19年2月24日の県民投票で「反対」票が7割を超える結果が示された。それでも政府は工事を止めることはなかった。「民意では勝てないと踏んで開き直るだろう」という県幹部の分析通り、政府は投票前から結果にかかわらず新基地建設を進める構えを見せ、翌25日から作業を強行した。

 だが現在までに、軟弱地盤の改良工事を加えた総工費は9300億円に膨らみ、使用開始までの工期も12年にわたるという工事計画の見直しを政府自身が示さざるをえなくなっている。県と国の法廷闘争でも、軟弱地盤の調査結果を公表していなかった政府に落ち度があると県が指摘し、県による埋め立て承認撤回の正しさを主張する根拠の一つにしている。県民投票前に見えてきたほころびは、この1年で大きく広がっている。

(明真南斗)