[日曜の風]新型コロナ対応 「政府への不信感」共有


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 新型コロナウイルスが、私たちの生活のあちこちに影響を及ぼしている。いや、深刻な影響はウイルスそのものではなくて、政府が発表する方針によってもたらされていると言ったほうがよいだろう。

 突然、発表された小中高の一斉休校や大規模イベントを自粛するようにといった呼びかけで、私の勤務する診療所の職員やアルバイトで生活を営む患者さんたちが右往左往している。

 中国と韓国からの入国者は2週間の待機などを要請されることになり、留学生やビジネスマンも途方に暮れている。観光業への痛手ははかり知れない。

 もちろん、このウイルス感染症にあらゆる対策が必要なのは言うまでもない。「新型」なのだから、すぐに方針が決まらなかったり変更を余儀なくされたりするのも仕方ない。とはいえ、とくに総理の説明には、いま医療の世界でもっとも重要視される「エビデンス(証拠となるデータなど)」が欠けている。

 また、日本は検査の面でも諸外国に比べて立ち遅れており、大学病院クラスでも検査希望者を「まず保健所に連絡して」と誘導するしかない状態が続いている。6日からは検査を保険適用にすると発表されたが、外来で医師が検査できるようになるのはまだ先のようだ。

 広がる不安や混乱の根っこにあるのは、結局のところ「政府への不信感」であろう。沖縄の人たちは「住民がいくら民意を示しても無視される」と政府に対する信頼を失っていたと思うが、皮肉なことに今回の新型ウイルスによって、それをようやく全国の人たちが共有することになったのだ。

 この不信感を国民の知恵で乗り越え、感染が終息する時が来たら、「これまでたいへんだったんですね」と沖縄の苦しみに心から共感できる人が増えてほしい。いまはそこにかすかな希望を見いだすしかない。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)