[日曜の風]民に届かない言葉 リーダー不信


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 日本中が新型コロナで大混乱。はいたい沖縄の皆さま!と明るくご挨拶(あいさつ)するのも憚(はばか)られる状況で、お初にお目にかかることになりました。実は、つい2週間ほど前、貧困家庭の子供たちに学習支援を行っているNPOの方々に会いに沖縄に行ったばかり。冷凍した沖縄銘菓の橘餅(きっぱん)をチビチビかじりながら、緊急事態宣言やら都市封鎖という言葉の重みに耐える日々であります。

 実はこの頃、「本当はどうなの?」と友人知人に聞かれることが多くなった。メディアでも連日コロナ関連の記事や番組があれだけ出回っているのに、本当はどうだと聞く。なぜ私に聞く? メディアの近くにいるから報じていない本当のことを知っているのではないかというのである。知らんがな! 私も知りたいわ。しかし、それって政府や自治体やメディアの発する情報が信じきれないということでけっこう深刻な事態なんじゃないかと思う。

 ま、かく申す私めも、習近平主席来日という自らの外交実績が消えたとたんに中韓入国制限するわが国の首相も、だんまり決め込んでいたくせにオリンピック延期が決まった瞬間にオーバーシュートだの重大局面だと連日まくしたてる都知事も、要は自分のことしか考えていないから信じていない。国の責務は、このような危機にあって国民の命と生活を守ることなのだが、この国の首相にそんなことは到底望めないってことは誰でも知っている。

 自分の延命のためには真面目な公務員の命を犠牲にしてもへっちゃらだし、データは改ざんするわ、捏造(ねつぞう)するわ、都合が悪いと平気で嘘(うそ)をついてきた。だから日々発表される感染者数だって信じられなくなってしまったのだ。昔は、中国の発表する数字は実態を反映しないと信じなかったが、今や日本も負けちゃいないのである。

 民意などまったく顧みないのは沖縄の人は先刻ご承知だと思うが、民の命すら自らの支持率や選挙に利用しちゃう。みんなそれを感じているから、発する言葉が届かない。心がない。危機に際してリーダーを信じられないというのは不幸なことだ。が、翻ってみれば、選んだのは私たちなんだよね。だからこそ目を逸(そ)らさず見ておかねば!と思っている。

(吉永みち子、作家)

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 よしなが・みちこ 1950年埼玉生まれ。東京外国語大学インドネシア科卒。「勝馬新聞社」「日刊ゲンダイ」で競馬記者。85年「気がつけば騎手の女房」で大宅壮一ノンフィクション賞。