本部町備瀬の神行事伝えたい 調査30年、茨城大の石井宏典さん


社会
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茨城大学人文社会科学部教授 石井宏典さん(54)

 沖縄県本部町備瀬に調査で関わり30年になる。ユタ研究の大橋英寿教授の調査に同行し、大学院の2年生に上がる春休みに訪れたのが最初だった。

 近代化の中で出稼ぎに出て行った人が抱える古里への思いに関心があり、備瀬での現地調査をきっかけに県外に渡っていった備瀬出身者の調査を始める。大阪の堺市で郷里出身者のメッキ工場へ出稼ぎに行った人から聞き取り、南米移民を追ってボリビアのコロニアオキナワにも渡った。

 この10年は備瀬に通って神行事の調査を重ねた。その内容を、このほど著書「根の場所をまもる 沖縄・備瀬ムラの神人たちと伝統行事の継承」(新曜社)にまとめた。生活環境が変わる中で神行事の位置付けがどう変化してきたかを記録した。郷友会の加勢や、人工ビーチやホテルの開発に伴う変化も描写した。

 那覇の新天地市場の調査で神人と知り合い、備瀬の神行事を調査することになる。豊作を祝い神に感謝する行事「シニグ」では、踊るウシデークの輪の人数も少なく、歌も録音テープに頼る状況だった。かつてはムラ全体が関わった行事が、現在は限られた人が支える。そこには時代とともに人がムラの外に働きに出るようになり、関わり方も変わっている。

 「当たり前に続いていくものと思い込んでいた行事が、これからどうなるものか」。シニグを継承していく上で、自分にも何か担えることはないか。そう考えたとき「通ってきた自分が担える役割は、ムラの無事を拝み続けている神人の姿を伝えたい」と思い至った。

 備瀬との出合いがなければ今の自分はない。「海と畑の恵みと結びついた自給的な営みが細くなる中で、神人は昔ながらの営みを守りながら拝んでいる」と話す自身の生活も備瀬の影響を受けている。

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石井 宏典(いしい・ひろのり) 1965年11月、茨城県土浦市生まれ。同県笠間市在。東北大文学部で社会心理学を学ぶ。1995年から茨城大で勤務し2009年から同大教授。小学生の頃、校庭で海洋博の記念コインを見つけた。それも何かの縁があったのか、見えないつながりも感じている。