医療格差 安心して住める北部に<6・7県議選 1票の現場から>4


医療格差 安心して住める北部に<6・7県議選 1票の現場から>4
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 比嘉江利子さん(41)が4人の子どもたちの写真を送ってくれた。2019年に生まれた美織ちゃんときょうだいが初対面した瞬間だ。名護市内に住んでいるが、4人はそれぞれ別の病院で生まれた。

 北部に産科の民間病院は名護市内の2院のみ。美織ちゃんが江利子さんのおなかにいる頃、県立北部病院の産婦人科は受け入れを制限していた。妊娠28週目に入り、通っていた個人院の医師が江利子さんに告げた。「前置胎盤のため、北部での出産は難しい。中部病院を紹介します」。帝王切開で大量出血する場合に備え、事前に自らの血を採取する自己血輸血の必要があった。前置胎盤の手術は、北部のどこの病院も受け入れてなかった。

 「車のシートベルトが大きなおなかを圧迫する。乗車時間が長く、万が一を考えて、その不安ばかりだった」。2週間に1度、約40分かけてうるま市の県立中部病院に通う日々が続いた。この頃、県立北部病院の眼科も休診した。長女が斜視の訓練のため通っていたが、那覇まで通うことにもなった。ほぼ1人でハンドルを握った。

 北部病院は自宅から5分の距離にある。総合病院であっても、出産できない。もはや高度医療とはいえなかった。

 「めっちゃ不安で、めっちゃ泣いた。妊婦はただでさえストレスがたまるのに…」。本部町の松田優里さん(27)は1人目の出産の時、名護市内の民間病院から北部病院に転院した。病院を見て驚いた。案内されたのは総合病室で、妊婦と他の病気の患者が同室だった。中南部と同様に子どもを安心して出産できる医療体制が整っていない。眉をひそめて言った。「不公平ですよね」

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 県立北部病院の産婦人科は19年から医師を増やし、新体制を取った。一方、脳神経外科など一部の診療科の休診は続いている。県は17年、北部病院と北部地区医師会病院を統合し、基幹病院を整備する計画を表明した。北部12市町村の首長や北部地区医師会と協議を進めてきたが、基本的枠組みの合意は約1年遅れた。県議選で、北部の候補者は「早期」の基幹病院整備を訴えている。

 妊娠中の江利子さんを支えた夫の和志さん(39)が言った。「定住を促進すると言われているが、北部は安心して住めない地域かもしれない」。自分たちの生まれ育った場所で、安心して子どもを産み育てたい。願うはそれだけだ。
(阪口彩子)