カンフル剤期待も 県は懸念と板挟み 空港食い止めにも限界が〈経済アングル2020〉


カンフル剤期待も 県は懸念と板挟み 空港食い止めにも限界が〈経済アングル2020〉
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 東京を除外した上で22日からのスタートが決まった国の観光支援事業「Go To トラベル」に、県内の観光関連事業者からは需要喚起のカンフル剤と期待する声が上がっている。一方で、人の動きが活発になることで感染者の移入例が増加することが想定され、ホテルや観光施設、交通機関は感染防止対策の徹底を進めている。県は感染拡大の懸念と経済対策との間で板挟みになりながらも、空港の水際対策を強化するなどして観光客の受け入れを進める考えだ。

 玉城デニー知事は4月末から5月上旬にかけての大型連休の直前に、全国に向けて沖縄への来県自粛を呼び掛けた。県外からの移入例が増えていた時期で、脆弱(ぜいじゃく)な離島の医療体制が逼迫(ひっぱく)するのを防ぐため、観光事業者からも意見を聞いた上で来県自粛に強い姿勢を打ち出した。

■玉城知事の沈黙

 政府が夏休み時期に合わせた今回の「Go To トラベル」を巡っては、全国各地の自治体首長から賛否の言動が巻き起こってきたのに対し、玉城知事は事業開始に対する評価について沈黙を続けてきた。県は報道機関のアンケートに「調整中」と回答する。

 玉城知事は16日に沖縄観光コンベンションビューローや観光事業者との意見交換を緊急に開催。国の観光キャンペーンに期待する観光業界の意向を踏まえる形で、21日に玉城知事が県の方針を表明する方向だ。

 背景には観光業界の厳しさが増す中で、観光地沖縄の最盛期である夏場の需要を逃すわけにはいかないという認識がある。

 沖縄への来県自粛を呼び掛けたゴールデンウイーク時に比べ、感染拡大防止と経済活動の両立を図る対策も一定進んできた。

 新型コロナの緊急事態宣言を経て、県内の観光事業者は独自の感染防止のガイドラインを策定し、飛沫(ひまつ)防止施設の設置や小まめな消毒のマニュアル化など徹底を図っている。

 16日の意見交換後、県の渡久地一浩文化観光スポーツ部長は「県としてどう関われるのかも考えていく。彩発見キャンペーンを国のGo To トラベル事業と絡められないかも検討する必要がある」と積極的な姿勢を見せた。

■離島の不安

 県も観光再開に向けた対策の一環として6月、那覇空港内に旅行者専用相談センター(TACO)を設置した。サーモグラフィーで発熱が検知された旅行者を問診し、医療機関でのPCR検査を促すなど独自の水際対策を導入している。

 しかし、発熱者に検査を強制することはできない。発熱が検知された人が問診を受けず、空港から出て行く実例も出ている。

 また、看護師2人、事務スタッフ2人で常駐しているが、旅行者1人の問診に最低2人の看護師が必要といい、複数の発熱者が同時に出た場合の対応が厳しい。県の担当者は「観光客が増えてくると人数を増やす必要があると思うが、まだ検討中だ」と話す。

 無症状の観光客が那覇空港を出て観光中に感染が確認される事例も生じている。空港でどれだけ移入例を食い止められるのか限界も指摘されている。航空関係者は「旅行先に到着してから対応するのでは遅い。旅行に出発する前のPCR検査を制度的に実施するべきだ」と提起する。

 現時点で旅行者専用相談センターは那覇空港しかなく、離島の人の出入りの増加への対応も緊急の課題だ。「Go To トラベル」の開始に当たり、県は来週中に宮古、石垣、下地島、久米島空港にもセンターを開設することで準備を急いでいる。

 竹富町西表島でガイド業を営む大谷修一さん(48)は「もし感染者が発生し、広がってしまえば『観光業イコール悪』になってしまわないか。一時的には潤うかもしれないが、中期的にはマイナスになる可能性もある」と不安視した。
 (中村優希)