<記者解説>「就職氷河期」は将来社会にひずみ コロナ長期化で新卒採用抑制の恐れ


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 県内売上高上位企業のアンケート(回答企業90社)では、2021年春の卒業予定学生の採用を中止する企業が5社あった。採用人数を20年度より減らす予定の企業は25社に上った。新型コロナウイルス感染症による経済の見通しは厳しさを増しており、売り上げ上位企業の中にも採用意欲の減退が現れていることが浮き彫りとなった。

 県経済は12年ごろから急速な成長が続き、労働集約型のサービス業が多い産業構造から慢性的な人手不足が生じ、2019年の平均有効求人倍率は1・19倍、完全失業率は2・7%といずれも復帰後最も良い数字だった。国内の少子化もあって県外企業も参入して人材の獲得競争は激しく、企業にとっては採用難、学生にとっては「売り手市場」の環境が続いてきた。

 しかし新型コロナウイルスにより状況が一変している。20年度に32人を採用した日本トランスオーシャン航空が旅客の急減を受けて「今後の事業環境を見通すことが困難」として採用活動を中止するなど、影響の長期化を見越して採用抑制の動きが強まっている。

 観光関連産業だけでなく「病院の受診控えで業績の見通しが不透明」(沖縄東邦・医薬品販売)、「飲食店の休業などで酒類の消費が伸びていない」(南島酒販)など、多くの産業に影響が及んでいる。

 比較的企業体力に優れた売り上げ上位企業と比べ、沖縄の雇用の大半を担う中小企業はさらに厳しい状況に追い込まれている。既に国内では新卒重視から即戦力候補として中途採用重視にシフトする動きもあり、今後、コロナ禍が長期化すればさらに新卒採用抑制が進む恐れがある。

 過去にもITバブル崩壊後の2000年代初頭や08年のリーマンショック後に採用が控えられたことがあった。「就職氷河期」と呼ばれたバブル崩壊後の就職難が現在の政治、社会の大きな課題となっているように、新型コロナの影響で就職難となる世代が生じれば、将来の社会全体に大きな影響を与えかねない。新卒一括採用のみの慣行見直しや、行政の強力な支援が求められている。
 (沖田有吾)