[日曜の風・室井佑月氏]いじめの構図 自分さえ良けりゃいい


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室井佑月 作家

 行われる前からテレビでは自民党の総裁選を追いかけ、始まったら始まったでそのことばかり報じるようになり、菅氏で決まりそうになったら、「令和おじさん」はパンケーキが好きとか今日はアイスを食べたとか政治とはまったく無関係の話で埋め尽くし、その上、集団就職で上京してきた苦労人であるという嘘(うそ)話も盛り込み、菅氏に下駄(げた)を履かせてみたところ討論では3人の候補の中でいちばん中身がなく、しかも間違った話をしてしまい翌日訂正をするというみっともなさで、それでも派閥の長が後押しする菅氏に決まっている出来レースは進み、そして菅氏が総理になったらなったで組閣人事の予想を嬉々として流し、それが決まってもなお、いまだ菅祭りのようなものを延々とつづけている。

 これはテレビ局が菅首相に忖度(そんたく)をしているからなのか。それとも裏で情報操作に暗躍する何者かがいるのか。メディアと自民党が有権者であるあたしたちを馬鹿(ばか)にしているのだけは理解した。

 いや、馬鹿にしているのではなく、馬鹿にしたいのだ。桜、モリ、カケ、文書の廃棄、選挙での買収。7年8カ月という長い安倍政権で浮かび上がった疑惑の数々。なのに、一部のメディアしかそのことには触れず、多くは安倍政治を継承すると言っている菅氏を持ち上げるだけ。そして今、菅政権の支持率は異常に高い。

 それにしても、総裁選での県連の3票がどうであったのか、あたしはそこに興味を持った。自民党が苦戦しそうな地域は、必ずといっていいほど3票を菅氏に投票していた。勝ち馬に乗っておかないと、選挙が得意でない自分らは後で意地悪されるとの発想か?

 これだけ自民党のCMみたいなものを流しつづけたテレビ局もきっとおなじ発想だろう。とにかく自分らの番組は生き残りたい、そういう気持ちなのではないか。

 どちらも、正しいことをしようという姿勢が見えない。彼らの仕事はそこが肝心なのに。この世からいじめがなくならないわけである。

(室井佑月、作家)