英語技能のバランスとは? 理解する力と伝える力に相補性<言わせて大学入試改革>


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南風原 朝和

 大学入試改革の議論では、英語4技能をバランスよく育成するために、入試でもバランスよく評価することが必要であるとの主張があった。

 何をもってバランスがよいと言うのかは明確ではないが、新しく導入される大学入学共通テストでリーディングとリスニングの配点が、これまでの4対1から1対1に変わることなどから、ひとつには「均等配点」のことを指しているようである。また、読むこと、聞くことに比べて、書くこと、話すことの成績が低いときに、バランスに課題があると言われるので、バランスの意味として「均等成績」ということもあるようだ。

 しかし、大学入学時点で、4技能の評価が均等の重みを持つのか、また均等の成績であることが望ましいのか、というと必ずしもそうではない。例えば、読むこと、聞くことという「受容の力(理解する力)」がほぼ十分にあって、書くこと、話すことという「産出の力(伝える力)」はまだまだ、という場合、おそらく日本の大学での学習をスタートするうえで、ほとんどの場合、大きな支障はないと思う。逆に4技能の合計点はいまの例と同程度で、どの技能も似たり寄ったりという場合は、学習の前提となる受容の力について、不安が残る。

 日本学術会議の言語・文学委員会、文化の邂逅(かいこう)と言語分科会は今年8月に、「大学入試における英語試験のあり方についての提言」を公表した。

 この中で、技能間のバランスに触れ、「受容の力が産出の力をけん引することができるようなバランスこそが重要である」と述べている。4技能で均等な成績というのは必ずしも理想とすべきことではなく、理解できないレベルのことを正しく話したり書いたりできないのは当然だから、技能間にギャップがあるのは自然な状態であるということだ。

 この提言に少し付け加えるとしたら、書く、話すの産出の力も、読む、聞くの受容の力に単にけん引されるだけでなく、産出の学習が受容の学習を促し、後押しする側面があることだ。このようなお互いを助ける相補性のあるバランスという見方は、単純に均等配点、均等成績をもって良いバランスとする見方より、ずっと説得力があり、また指導と学習の改善に資するのではないかと思う。

 この提言自体への異論や留保もあり得ると思うが、今後の改革では、少なくともこのような学術的な議論をしっかりと踏まえてほしいと思う。
 (南風原朝和、東京大学元副学長)


 新しい大学入学共通テストが2021年1月に実施されるに当たり、2人の執筆者に交互に月に1度、その背景や思いを執筆してもらう。次回は11月27日付で、灘高校・中学校教諭の木村達哉氏が執筆する。