問われる存在意義 農家減少、販売網多様化<連載「自己変革」の波紋 JA沖縄店舗再編(下)>


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 「農協は身を切る改革をしているのか」―。

 16日午前9時、名護市のJAおきなわ辺野古出張所には、開店と同時に農家が次々と訪れた。農薬を買いに来た70代の男性は疑問をぶつけた。JAおきなわが進める店舗再編計画で、辺野古出張所は23日に閉店する。「支店はハルサー(農家)の交流の場だった。農協は魅力ある農業を考えているか」と厳しい表情だ。

 JAおきなわの2020年3月期決算で、事業損益は前年度比10億8千万円減の2億3600万円の赤字となった。事業損失を計上するのは11年ぶりだ。

 経営スリム化で収益改善を図るJAおきなわは、大規模な店舗統廃合に着手した。経営改善をしなかった場合、21年3月期はさらに4億円の赤字が出ると試算する。再編で人件費や店舗維持費などを削減することで5億円の収益改善を見込み、事業利益1億円まで回復させる狙いだ。

 「経営改善はあくまで本業の農業を支える経営基盤をつくるため」(JAおきなわ幹部)だが、経営スリム化で農村地域のサービス低下は避けて通れない。前田典男専務は「農協の存在意義が突き付けられた」とジレンマを認める。

 県内農業就業人口は減少傾向が続き、15年度は1万9916人と2万人を切った。JAおきなわで農業に従事する「正組合員数」も比例して減少が続く。19年度の正組合員数は4万7059人で、05年度から16・4%の減少となった。

 その一方で、農業には従事せず、融資などJAの事業を利用する「准組合員」の数は増加している。本業である農業基盤自体は縮小している半面で、信用共済事業で組織が大きくなっている。

 店舗再編による経費削減が、最終的には農業振興を支えるだけの足腰の強い財務・組織体制の構築につながるのか。予期せぬ新型コロナウイルス感染症の影響もあり、長期的な見通しは立っていない。

 JAおきなわが「攻めの事業」として展開していた海外クルーズ船への売り込みを通じた海外輸出促進策は、新型コロナの影響をもろに受けて停止。農業部門の稼ぎ頭であった畜産も、石垣牛の在庫滞留など大きな影響を受けた。

 普天間朝重理事長は「本来やるべきことは農業事業の収支改善だ」と強調した上で、「先行きの見通しがつかない中では、攻めの事業をしても利益は生まれない。今は経費圧縮で守る時だ」と語る。

 農家の減少や高齢化に歯止めはかからない一方で、農業法人や株式会社の農業参入の流れは進み、農協の販売網に頼らない流通チャンネルの多様化も加速している。JAおきなわが引き続き第1次産業の活性化に主体的な役割を果たしていけるのか、存在意義が試されている。

 農林中金総合研究所で農業協同組合などの研究をする斉藤由理子特別理事研究員は「超低金利の下で、信用事業は大きな変化の局面にある。現在のビジネスモデルを見直す時期だ」と提起する。店舗再編後に求められる在り方について「デジタル化の進展や法人化の増加など、急速に農業環境は変化する。JAが組合員や地域のニーズにどう応えていけるのかが重要になる」と指摘した。

 (石井恵理菜)