沖縄の自画像 大城立裕の生きた時代〈下〉 短編集「普天間よ」


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原点戻り基地問題言及

 名護市辺野古への新基地建設に反対する県民大会(2015年5月17日)の共同代表の一人に、大城立裕さんが名を連ねた。就任が報じられると、関係者に衝撃が走った。「大城立裕全集」(02年刊行)の編集に携わった文芸評論家の黒古一夫さんは「本人から運動とは距離を置いていると聞いていたので驚いた」と振り返った。大城さんと交渉したのは名護市区選出の県議、玉城義和さん(故人)だった。体調不良で参加は見送ったが「服従の歴史をはねのける結集」という大城氏の思いが報じられ、県民が一丸となる原動力の一つになった。

「論座」2005年9月号に掲載された大城立裕さんも名を連ねた共同論文「軍事基地の負担軽減を求める沖縄の論理」

 11年の短編集「普天間よ」の発刊も関心を集めた。書き下ろしの表題作が特に注目を集めた。1995年の少女乱暴事件や2004年の米軍ヘリ沖国大墜落事故、新基地建設問題に触れた。現実的な問題を小説に盛り込むことに慎重だった大城さんが直接、基地問題を描いたからだ。

 小説のテーマは「沖縄人のアイデンティティー」。前述の県民大会に先立って11年7月の本紙の取材では「基地によって奪われた自分を取り返そう」というアイデンティティーの問題こそが新基地建設で県民に問われている、としている。

 基地問題への言及はさらにさかのぼる。05年、月刊誌「論座」9月号に掲載された共同論文「軍事基地の負担軽減を求める沖縄の論理」に執筆者の一人として、沖縄対外研究会顧問だった故宮里政玄さん、元琉球大教授の我部政明さんらと名前を連ねた。沖縄の過重な基地負担を論じた。05年10月、本紙の取材に執筆者に加わったいきさつを語った。我部さんから何度か論文のたたき台への意見を聞かれた際、「歴史的由来の部分が弱い」と感じ、「書こうか」と申し出たという。歴史的、文化的側面からもアプローチしないといけないという思いがあり、書けるのは自分だけだと自負があった。

 復帰直前から「沖縄問題は文化問題」だと繰り返した。2000年代以降、基地問題への言及が増えてきたことについて、黒古さんは「組踊の作品を作っていた時期と符号する。米軍基地が沖縄古来の文化と相いれないと改めて感じたのではないか。『カクテル・パーティー』の原点に戻りもう一度、沖縄に向き合った」と推測した。

 八重山伝統歌謡研究家の當山善堂さんは近年、社会的発言が増えた理由を尋ねたことがある。大城さんは「自分がそうせざるを得ない状況だ。文章で勝負したらいいと意図的に避けていたがひどい。行動しなくてはいけない」と日本政府の強硬姿勢を嘆いていた。

 18年8月刊行の私小説集「あなた」に収録した「辺野古遠望」では新基地建設への「賛成」「反対」の2項対立では収まらない、沖縄で暮らす人々の置かれた複雑な構図を鋭く照射している。

(宮城久緒)