賞選考通じ若手育成 沖縄拠点に活動、実績残す 仲程昌徳<戦後沖縄文学の軌跡―大城立裕を語る>1


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ

 沖縄初の芥川賞作家・大城立裕さんが10月27日、他界した。享年95。小説や戯曲、評論などで沖縄の歴史や文化に根差した活動を続けてきた大城さん。その足跡は、沖縄の戦後文学の軌跡とも重なる。作品の特徴、人柄、逸話などについて研究者や若手作家らにひもといてもらう。

仲程 昌徳氏

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 大城立裕さんは、小説や戯曲など自らの作品を執筆するだけではなく、文学賞の選考委員も務め、沖縄文学全体のレベルを底上げすることにも力を入れてきた。文学賞の選者として煩(はん)をいとわず取り組んだ。琉球新報短編小説賞や沖縄タイムスの新沖縄文学賞、九州芸術祭文学賞をはじめ、1991年に当時の具志川市がふるさと創生事業を活用し、全国公募した1000万円懸賞小説賞などでも選考委員を務めた。その際の応募作品との向き合い方にも後輩を育てたいという姿勢がよく現れている。

 

 作品に向き合う

 私も大城さんと一緒に、九州芸術祭文学賞の選考委員を務めたことがある。賞を目指して、たくさん寄せられる作品には、いろいろなレベルがある。読み応えのある面白い作品から、完成度が低くて読んでいて苦しくなるものまであるが、全てを丁寧に読んで選ばないといけない。読みたくなくなる応募作もある。大変な仕事である。

 いろんなレベルの作品がある中で、大城さんは応募作品をとても丁寧に読み込むなど、黙々と選考の作業に向き合っていたことが印象に残っている。選考会で議論をしていく場では言うまでもなく、新聞などへ掲載された選考評を読んでもそうした姿勢が伝わってきた。作品それぞれの良い点、改善すべき点を具体的に指摘した。それは、沖縄文学全体を向上させていくことを考えていたからに他ならない。こうした文学賞から、県出身の作家が育っていった。

 県出身の芥川賞作家、東峰夫さんが小説の中でうちなーぐちを使った後に、文学賞への応募作品の中にも、うちなーぐちを取り入れた作品が多くなった時期があった。大城さんは選考の中で「何でもかんでもうちなーぐちであればいいということではない」という趣旨の発言をしたことがある。もちろん、大城さん自身も、うちなーぐちの使い方にはこだわっていた。うちなーぐちを使うにふさわしい場面や使い方が適切かどうかなどを含めて考えた上で使う大切さを指摘していた。

琉球新報短編小説賞の最終選考会で選考委員の又吉栄喜さん(左)、辻原登さん(右)と話し合う大城立裕さん=2004年12月6日、東京・千代田区の日本プレスセンター

 修正を後悔

 自らの作品でも、言葉にはこだわったが、編集者と意見が違い、不本意な表記になった例もあると聞いた。大城さんが小説「亀甲墓」を書いて東京の出版社へ送った際に、沖縄風の言い回しをした部分で、編集者が認めない表現があり、修正しなければならなくなったという。そのことを大城さんは「後悔している。『沖縄ではそう言っている』と押し通せば良かった」と振り返っていた。

 そうした自身の後悔もある中で、使うべきものとそうでないものは区別して、大切にしていかないといけないと考えていたのであろう。

 大城さんの後に、県出身の優れた文学者がたくさん出てきた。そうした表現者たちを見ていると、大城さんは、やるべきことは果たせたのだと思う。今後、後輩たちが新しい文学を作っていくだろう。それだけ実力がある人たちが出てきている。

 東京には出ず

 もう一つ、大城さんが沖縄の作家へ示したことがある。それは、沖縄に住んでいても、文学作品を書いていけるということだ。たくさんの作品を書き続けてきた大城さんだけに、東京へ出て執筆活動をする方が便利だっただろう。東京の出版社としても、東京にいてほしかっただろう。しかし、大城さんはそうしなかった。

 東京の雑誌社に対して、大城さんとしては「小説をもらいたいのであれば、沖縄に来てもらいたい」という気持ちだったのではないか。沖縄を拠点にしなければ、書けないことがあるという思いもあったのだろう。沖縄の文学史の中で、沖縄に住んでいて、これだけの実績を残したのは、大城さんに始まると言ってもいい。沖縄で作家として頑張れるということを示し、東京の出版社へも認めさせた。その実績が沖縄を拠点に活動し、活躍している作家たちに与えた大城さんの影響は決して小さくないはずだ。
 (談、元琉球大学教授)
 (次回は5日掲載)

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 なかほど・まさのり 1943年南洋テニアン島カロリナス生まれ。琉球大学大学院修了。73年から同大学職員。2015年から沖縄県女師・一高女ひめゆり平和祈念財団代表理事。著書に「山之口貘 詩とその軌跡」「近代沖縄文学の展開」など。