米大統領選挙と沖縄 県系人活用し声届けよ<佐藤優のウチナー評論>


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 米大統領選挙では、民主党のバイデン候補(元副大統領)が過半数獲得に向け優勢になっている。4日、バイデン陣営は当選を確実にした場合に備えて、来年1月の大統領への正式就任に向けた「政権移行チーム」のウェブサイトを開設した。

 開票が終了し、バイデン氏が当選したとの結果が出てもトランプ大統領が不正が行われたと主張するであろう。来年1月に任期が終了した後もホワイトハウスに居座るという見方をする人もいる。しかし、筆者はそうなる可能性は低いと見ている。トランプ氏が権力の座に居続けることを保障するために大統領警護部隊(シークレットサービス)や連邦軍が、内戦のリスクを冒して協力するとは考えにくいからだ。開票が終了すればその結果に米国の政府機構は従うことになると思う。

 米大統領選挙の結果は、沖縄にとっても大きな影響を与える。他の都道府県と比べ、県庁は緊張感を持って、情報収集と分析を行っている。

 〈県庁では基地対策課を中心に開票速報を見て情報を収集している。ワシントン事務所では今後の米国との交渉に向け、人事など米政府の態勢について情報を集めたい考えだ。/謝花喜一郎副知事は「民主党になろうと、共和党になろうと、基地に関する政策や中国との関係は同じだ。(米軍の)『集中から分散へ』という流れは変わらないだろう」と話した〉(5日本紙電子版)。

 謝花副知事の分析は的確だ。ただし、米国と北朝鮮の関係を考慮すると沖縄にとって不利な状況が生じる可能性がある。米民主党は、自由や民主主義という人権といった価値観を軸に外交を展開する。

 トランプ大統領の場合、価値観よりも、自らの権力基盤を強化するための取引(ディール)を重視する。この例が、トランプ氏と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との3度の首脳会談だ。その結果、朝鮮半島での武力衝突を回避することはできたが、北朝鮮の核保有を米国が事実上、容認することになった。また、米国は北朝鮮に新型弾道ミサイル開発を阻止することもできなかった。

 バイデン氏が大統領になった場合、トランプ政権よりも強硬な態度を北朝鮮に対して取ることは間違いない。その結果、沖縄の米軍基地機能の強化という選択をバイデン政権が行う可能性が排除されなくなる。

 4日、東京で玉城デニー知事は、〈記者団に「昨年、米国に出向いて基地負担軽減や日米同盟の安定化について県の考え方を伝えた。どなたが大統領になっても引き続き要請し続けたい」と語った。「国同士で物事を進めるのではなく、沖縄という当事者が加わった上で現実的な議論をさせていただきたい」と強調した〉(前掲本紙)。

 適切な発言だ。県が米国のウチナーンチュ・ネットワークを活用して、沖縄という当事者が加わった上で現実的な議論を展開すべきだという意見を民主党幹部に届けてほしい。

(作家・元外務省主任分析官)