「子どもに弱さ見せて」サヘル・ローズさん 戦争孤児、DV、いじめの経験…沖縄の教員に語ったこと


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「無理して上を向くことが正解じゃない」と語るサヘル・ローズさん=14日、那覇市の沖縄タイムスホール

 イランに生まれ、8歳で来日した俳優サヘル・ローズさんは14日、県教職員組合(沖教組)那覇支部が主催する講演会に登壇し、人と人が支え合う社会の大切さを説いた。戦争で家族を亡くして孤児院で育ち、養母と来日後も養父からの暴力や学校でのいじめに苦しんだサヘルさん。「受けた痛み、苦しさにも意味がある」と、つらかった過去を包み隠さず明かし、「上を向くことが正解じゃない。弱さを見せた方が人は歩み寄れる」と語った。

 イラン・イラク戦争の後、孤児院で育ったサヘルさんは、裕福な家庭で育った養母に引き取られた。当時、養子を引き受けるには「子どもを産めない体であること」が条件の一つだったため、養母は手術を受けてサヘルさんを引き取ったという。その行為で養母は実家との関係が悪化し、養父が働く日本に移り住んだ。

 来日後に養父の暴力が始まり、両親は離婚。外国人労働者として工場で働く養母の給与は少なく、公園で生活したこともあった。

 中学校に入ると、人種を理由にいじめを受けた。階段から蹴り落とされ、けがをしても、教師は「気をつけて」と言うだけで助けてはくれなかったという。自分が疫病神だと思い込み、自殺を図ったこともあった。

 ある日、学校を早退して家に帰ると、気丈に振る舞っていた養母が泣いているのを見た。

 「疲れた。サヘルが死にたいなら、いいよ。一緒に死のう」と言う養母を抱きしめると、やせ細った体になっていることに気付き、「この人を幸せにしたい」と思ったという。

 ホームレス生活から救ってくれた給食調理場の職員、スーパーの試食で腹を満たしていたのに気付き食料品をくれた店員、「頑張らなくてもいい」と言ってくれた高校教員など、支えてくれた人がいたことも語った。

 サヘルさんは「子どもは優等生の先生、親には気持ちをさらけ出せなくなる。背筋を伸ばして先生らしく、親らしくするより、弱さを見せた方が歩み寄れる。生身の人間として友人になってほしい」と、子どもとの接し方を助言した。

 現在、国際人権団体などで子どもの支援を続けており、「表現の道に進んだが、芸能界で成功することが目標じゃない。自分が電波塔となって社会に発信していきたい」と語った。