<感染者と呼ばれて1>「家の前、通るとうつる」偏見の目が家族にも(全3回)


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 耳を疑った。「川満の家の前を通るとうつる」。8月、新型コロナウイルスに感染した豊見城市議の川満玄治さん(45)は知人からの電話で、悪質なうわさが流れていることを知らされた。家族のことが心配でたまらない。病室のベッドの上で、居ても立ってもいられなかった。 (照屋大哲)

 感染判明後、電話やメール、無料通信アプリLINE(ライン)には容体を心配する声が寄せられた一方、「議員のくせに飲みに行った」「何を考えているのか」と冷たい言葉も向けられた。見ず知らずの電話番号から「責任をとった方がいい」とのショートメールも届いた。

 川満さんが発熱し、PCR検査を受けたのは7月30日。2日後、陽性と判明した。その日の夜、本紙を含め複数のマスコミから感染の事実を確認する電話が入った。妻は「私たち、悪いことしたの…」と泣き崩れた。川満さんは8月3日、県立南部医療センター・こども医療センターに入院した。

 心ない言葉のやいばは家族にも突き付けられた。長女は父が感染したことを学校で度々言われ、からかいを受けたと感じ、「つらかった」とこぼした。川満さんの子どもは感染していなかったが、ある保護者から「休ませなさい」というメールも届いた。「感染者をあたかも犯罪者と見るかのような空気」がまん延しているように感じた。

 県内では7月に入り感染が急拡大していた。陽性となった人や医療従事者に偏見のまなざしが向けられることを危惧し、県は31日、「差別や誹謗(ひぼう)中傷をしてはならない」との文言を定めた「新型コロナウイルス感染症等対策に関する条例」を施行した。

 9月には国も動き、コロナに関する偏見・差別などを話し合うワーキンググループを設置。西村康稔経済再生担当相は「差別や偏見は積極的疫学調査に抑制的な効果を生じさせかねない」との見方を示している。

 インターネット上でも感染者を特定しようとする言説があふれた。川満さんも1500人ほどが参加するラインのチャット機能で、感染者の個人特定に関するやりとりに接した。矛先が自分に向けられている気持ちになり、川満さんはやめるよう書き込んだ。

 8月30日、約1カ月の入院生活を終えた川満さんは自宅に戻ったが、周囲の視線はまだ冷ややかだった。人目が怖く、日中は外に出られない日々が続いた。体力回復に向けて体を動かすため、夜間に恐る恐る出掛けるしかなかった。感染者を「犯罪者扱い」するような風潮に、川満さんは今も疑問を抱く。「悪いのは感染者ではなく、コロナウイルスじゃないのか」


 新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。収束が不透明な状況を巡って、偏見や差別的な言動が絶えない。川満玄治さんの感染経験から、コロナとの向き合い方を考える。