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領空開放条約 沖縄が日米中に提言を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米ロ関係の緊張が一層強まりそうだ。

 〈トランプ米政権は22日、欧米とロシアなどとの間で偵察機による相互監視を認めたオープンスカイ(領空開放)条約を脱退した。国務省が発表した。米側はロシアの違反を理由に条約にとどまる利益がないとして、5月にロシアなどに脱退を通告。6カ月が経過し条約に基づき脱退が有効となった。/米ロ間では昨年8月、米側の一方的な離脱表明によって中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効している。今回の脱退で、軍事面での透明性や相互信頼の低下が懸念されており、さらに緊張が高まる可能性がある〉(23日、本紙電子版)。

 領空開放条約は、ソ連崩壊の翌1992年、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国とロシアなどの間で調印され、2002年に発効し、米ロを含む34カ国が批准していた。日本は当事国でない。

 ロシアがバルト海沿岸のカリーニングラード州やジョージア国境のロシア領空で、米国の偵察機の飛行を制限したのは事実だ。ロシアの論理では、現地では軍事的緊張が高まっているので、偶発的な衝突が起きた場合、取り返しがつかなくなるというものだ。特にジョージア付近では、偵察機を装った戦闘機や爆撃機が飛行する可能性が十分ある。ロシアの措置を口実に領空開放条約自体から離脱するという米国の政策は乱暴だ。

 米国のバイデン次期大統領は、トランプ大統領よりも対ロシア外交姿勢は強硬だ。従って領空開放条約からの米国の離脱をバイデン政権が見直すことはないと思う。このような米国の姿勢にNATO(北太平洋条約機構)に加盟するヨーロッパ諸国は不満を持っている。

 今年5月21日にトランプ大統領が領空開放条約から米国が離脱する意向を表明した際に、事実上ロシア政府が運営するウエブサイト「スプートニク」が興味深い報道を行った。

 〈トランプ米大統領は(5月)21日、オープンスカイ条約から脱退する意向を表明した。その理由としてロシアの違反を挙げている。/NATOのストルテンベルク事務総長はツイッターにメッセージを投稿し、「NATO加盟国は本日、オープンスカイ条約について話し合うために集まった。我われは軍備、軍縮および不拡散に対する現行の国際的管理を維持するという断固たる意向を表明する」と伝えた。/フランス外務省が発表した10か国(フランス、ドイツ、ベルギー、スペイン、オランダ、フィンランド、イタリア、ルクセンブルグ、チェコ、スウェーデン)によって署名された文書には、形成された状況に対する米国の懸念には同調するとしているものの、条約からの脱退に関する米国の声明を「残念」に思っていると記されている。/また文書では、ロシアとの対話を継続する意向についても述べられているほか、ロシアに対してカリーニングラード上空の飛行制限を解除するよう求めたと記されている〉(5月23日「スプートニク」日本語版)。

 ロシアは今後、領空開放条約で、米国とヨーロッパを離間する働きかけを強め、それは一定の効果をあげると思う。

 尖閣諸島問題をめぐり、日中間の緊張が高まっている。バイデン政権の誕生で米中関係も一層緊張するであろう。そのような状況で、沖縄が積極的なイニシアチブを発揮して、東アジア地域の平和を担保することが重要になる。日米中で領空開放条約を締結することを沖縄が積極的に主張してみる価値があると思う。

(作家・元外務省主任分析官)