内閣支持率の急落 政局流動化の可能性も <佐藤優のウチナー評論>


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 菅義偉内閣に対する支持率が急落している。

 〈毎日新聞と社会調査研究センターは(12月)12日、全国世論調査を実施した。菅内閣の支持率は40%で、11月7日に行った前回調査の57%から17ポイント下落した。不支持率は49%(前回36%)で、菅内閣発足後、不支持率が支持率を上回ったのは初めて〉(12日「毎日新聞」電子版)。

 菅内閣の支持率が急落した原因は、新型コロナ対策をめぐる国民の不満だけではない。東京地方検察庁特別捜査部が「桜を見る会」前夜祭に関し、政治資金規正法違反容疑で安倍晋三事務所関係者を調べているという情報がリークされたことも無視できない影響を与えている。

 このリークはミクロ的には、来年の自民党総裁選をにらんで、安倍氏の影響力行使を牽制(けんせい)するので菅首相に有利だ。しかし、それは菅氏が圧倒的な政治的求心力を持っているということを前提にする。求心力が衰えると、安倍前政権の官房長官だった菅氏にも「桜を見る会」に関連する記者会見での発言に対する責任が問われるようになる。

 検察は、時の権力者に利用されていると見られるのを嫌う。安倍氏を牽制するために菅首相が検察を利用しているという見方が論壇の一部やインターネット空間で広がったことに検察は危機感を覚えた。そして、菅首相の側近で、二階派の事務総長を務めていた吉川貴盛元農水相を標的に定めた。

 最近、検察によるリークが少なくなっているが、東京地検特捜部は農水省幹部から事情聴取するなど、吉川氏の逮捕に向けた準備を着実に進めている。現時点でも政治資金規正法違反(虚偽記載)だけならば、検察は立件に自信を持っている。

 ただし、受託収賄で立件するには、吉川氏が農水相としての職務権限を行使したことを立証しなくてはならない。その点について検察に有利になる証拠を集めているのだろう。「菅も安倍もまとめて整理してやる」というのが、現場の検察官の意識なのであろう。

 同時に検察は、アキタフーズ問題が、構造汚職であるという雰囲気を醸成しようとしている。8日、西川公也・内閣官房参与が辞任した。

 〈加藤勝信官房長官は8日の記者会見で、西川氏から参与退任の申し出があったと明らかにした。西川氏を巡っては、鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループ元代表による吉川貴盛元農相への現金提供疑惑に絡み、クルーザーによる接待が明らかになっていた。/西川氏は辞任の理由について周囲に「悪いことはしていないが、自民党と政府に迷惑を掛けるので身を引く」と説明しているという。加藤氏は会見で「一身上の都合だ」と語った〉(8日、本紙電子版)。

 西川氏も菅首相の側近だ。検察は真綿で菅首相の首を絞めるように、吉川氏、西川氏を標的にしている。

 現在、新型コロナウイルスへの感染者の急増やGo Toトラベルの一時停止に国民の関心が集まっているが、吉川氏が逮捕されれば、「政治とカネ」の問題をマスメディアが大きく取り上げる。また、「桜を見る会」前夜祭の問題だけでなく、森友学園問題や日本学術会議問題に関しても再度、政権批判が強まるであろう。そうなると安倍氏が辞意表明をした後、急速に菅氏に接近した政治家、マスコミ関係者、評論家らが菅氏から距離を置くであろう。

 菅政権の基盤はポピュリズムだ。今回の毎日新聞の世論調査結果が一時的現象ではなく、内閣支持率が40%を下回ることになると、「菅では選挙を戦えない」という声が自民党内から出てくる。その結果、政局が流動化する。いずれにせよ、検察が吉川氏をいかなる名目で逮捕し、リーク攻勢をかけるかが鍵になる。

(作家・元外務省主任分析官)