「風疹児」の軌跡、未来へ…難聴生きた55年、教師や家族らが本出版


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄風疹聴覚障害教育を記録に残す会はこのほど、「聴こえない世界に生きて~沖縄風疹児55年間の軌跡~」を出版した。1964年から65年にかけて、県内で流行した風疹により聴覚などに障害のある「風疹児」が生まれた。その数は400人を超す。今年で55歳になる風疹児が生まれた当時の様子や、早期教育が始められるまでの経緯などをまとめた。かつての教師や風疹児の家族による回想、「難聴による困りごと」をテーマにした座談会の記録、体験談なども収録した。(名嘉一心)

「聴こえない世界に生きて~沖縄風疹児55年間の軌跡~」の紹介をする沖縄風疹聴覚障害教育を記録に残す会の木村まち子さん=13日、沖縄市久保田のプラザハウス

 同会は過去の事実を教訓にするため、風疹などに関する記録を残したいとの思いがあった。本を制作する過程で否定的な意見もあった。ある当事者からは「なぜ今更、自分たちのことを取り上げるのか」と疑問の声があったという。風疹児の教育に携わった同会の木村まち子さん(70)=沖縄市=は「55年前の沖縄で起きた事実を次の時代に残すため、一冊の本にしなければ」と説得して回った。

 出版後、当時を知る人などから「風疹児を取り巻く当時の状況を知ることができた」など、さまざまな反響が寄せられたという。制作に関わった当事者は「どのような反応があるか心配だった。自信につながった」と述べた。木村さんは「過去の出来事を正しく知ることで、未来を築くことができる。風疹児やその家族、教師がどのような環境にいたか知ってほしい」と話した。

 妊娠初期の女性が風疹に感染すると、先天性風疹症候群(CRS)の子どもが生まれる可能性が高まる。風疹ワクチンを接種して抗体を持つ人が95%になれば地域での感染が防げるとされるが、沖縄では昨年の1月から12月までに、14人の感染が確認された。今年は県内で風疹の感染は確認されていない。

 「聴こえない世界に生きて~沖縄風疹児55年間の軌跡~」は、県内の書店や琉球新報Webストアなどで販売している。


沖縄風疹聴覚障害教育を記録に残す会編
A5判 280頁

¥1,350(税抜き)