沖縄三大綱引きの一つ、与那原大綱曳。440年余の歴史を持ち、東と西、双方の“綱武士”による熱戦が繰り広げられる。勝敗が決すると、ソーグ(鉦鼓)の音を合図に旗頭が上がる。互いの健闘をたたえ合い、会場の盛り上がりは最高潮を迎える。 (照屋大哲)
大綱曳は旧暦6月26日の次の日曜日に実施される。その2~3カ月前から、東西の男性が旗頭の制作を始める。チヂンドゥールーと呼ばれる旗の最上部にある飾りには特に熱を込める。その出来が旗頭の真価を左右すると言われるからだ。東は菊とチョウ、西は梅とウグイスが形作られ、それぞれ精巧な仕上がりとなる。本番2週間前には旗頭の練習が始まる。現在、東は20~40代、西は20~30代のメンバーがいる。伝統的に旗を持つのは男性のみと決まっているという。
与那原の旗頭には二つの特徴がある。一つは旗を立て、気勢を上げ、綱を鼓舞するガーエーだ。綱曳の前後に複数回にわたって繰り広げられる。綱曳の2戦目終了後には双方の旗を激しくぶつけ合い、チヂンドゥールーはぼろぼろになる。勇壮で迫力に満ち、綱曳の花形とも言われる。二つ目は旗の持ち方。腰に旗を安定させるための装具は付けない。右手1本で持ち、左手は添えるだけ。旗を上下だけでなく前後にも動かし、舞い踊らせるような動きは「モーラス」または「モーラスン」と表される。うまい旗持ちは「ユーモーラサー」と呼ばれ、子どもの憧れの的となる。
本番の日。東は紫、西は赤の衣装を身にまとい高さ約8メートルの旗頭を持ち上げる。「サーサーサー」「ハーイヤ、ユシデー」の掛け声に金鼓、どら、ほらの音が響き渡る。力強さと旗頭の華麗さに多くの人が魅了される。与那原が一年で最も熱い日となる。
19歳から旗頭を続け、現在、東の顧問を務める吉野了(さとる)さん(49)は「与那原大綱曳は町の一大イベントだね。綱曳や旗頭でつながる人間関係は誇りだよ」と話す。
20代前半から旗頭に情熱を持ち続ける西の顧問与那嶺斎(いつき)さん(49)も「伝統の担い手として誇りを持ってやっている。与那原人で良かったと感じる」と熱く語った。
今年は新型コロナウイルスの影響で、与那原大綱曳は中止に。規模を縮小し、神事目的の「綱曳」が実施された。
だが、2人は既に次を見据えている。再び与那原が熱くなる日が来ることを信じ、言った。「来年こそは実施したい」
(おわり)
【灯籠】菊と蝶(東)、梅とウグイス(西)
【旗字】國豊(東)、民榮(西)
【重さ】50キロ(東)、45キロ(西)
【高さ】8メートル(東・西)