<検証 豚熱1年>③8日間で9043頭を殺処分 混乱した現場から見えてきた沖縄畜産行政の課題とは


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written by 石井恵理菜

 2020年1月8日、農林水産省の遺伝子解析により、県内では1986年以来となる豚熱(CSF)ウイルスの感染豚が確認された。ウイルス封じ込めのため、県職員や自衛隊、関係協力団体など延べ2万人が発生現場や周辺での防疫作業に携わった。見えないウイルスと闘う現場は、多くの課題に直面した。

殺処分した豚の埋却作業が進む市有地=2020年1月9日、うるま市内(小型無人機で撮影)

 豚熱ウイルスが確認されると、まん延を防ぐための防疫措置として、養豚場にいる全ての豚が殺処分される。72時間以内に豚を埋却し、農場を消毒する。発生農場から3~10キロ圏内に規制がかかり、豚の移動・出荷が制限され、車両の消毒ポイントが設けられる。

 県は発生農場から半径10キロ圏内にある農場に出向き、豚を検査して感染が拡大していないかを調べる。そこで新たにウイルスが見つかれば殺処分・埋却・消毒を実施し、規制や検査の範囲を広げていく。

 1月8日から同15日までの8日間に、うるま市と沖縄市にある7農場で計9043頭の豚が殺処分になった。短期間での続発に防疫作業の人員は追いつかず、さまざまな団体から動員された要員が効果的に機能しない事態も生じた。

 埋却作業に協力した県建設業協会の源河忠雄専務は「指示系統が一元化できておらず、現場が混乱した」と振り返る。現場のリーダー(県の獣医師)が数時間おきに交代し、指示が引き継がれず、防疫作業が遅れた。人員の配置がうまくいかず、協力団体が待ちぼうけになる場面もあった。

 豚を埋める埋却地が当初見つからなかったことも、殺処分に取りかかれない状況を招き、作業遅れにつながった。

 埋却地は原則、農家で用意しておくことが国の指針で定められ、農家で確保できない場合は市町村や県が確保する。2018年に、小規模農家を除いた県内165農場に県が聞き取りした調査で、3割近くは埋却地の用意がなかった。

 今回の豚熱発生で埋却地を用意していた農家でも、斜面で大型車両の出入りが難しいことや、磁気探査の結果、使用できないという状況があった。当時、県中部農林土木事務所長だった桃原聡氏(現・県農林水産部村づくり計画課長)は「どんなに演習をしても、埋却地がなければ意味がない。家畜伝染病の対策において埋却地の確保は非常に重要だと痛感した」と話す。

 豚熱発生後の防疫措置の混乱に加え、農場へのウイルス侵入・拡大を未然に防げなかった畜産行政の課題として、県畜産振興公社の仲村敏専務は「県の家畜防疫員(獣医師)不足が根本的な問題」と話す。

 15年の調査で県家畜保健衛生所の獣医師は34人と、全国平均より11人少ない。獣医師1人当たりの農家戸数は143戸で、全国平均の3・1倍の多さだ。

 年1回の巡回指導ができていない農場もあるなど、日々の業務に追われ末端の農家まで指導が行き届かない現状がある。鳥インフルエンザの流行、国内未発生のアフリカ豚熱(ASF)の侵入リスクもある中で、獣医師不足という課題が突きつけられている。

 豚熱発生時に県畜産課長だった仲村氏は「指針やマニュアルに基づき立ち入り指導や訓練を確実に実施していれば、予防や防疫措置を効果的にできたはず」と振り返り、「獣医師が気概と誇りを持って職務を全うできる環境と処遇が必要だ」と人材確保の重要性を強調した。