<検証 豚熱1年>⑤ 土地限られ密度全国一 衛生管理の高度化急務


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written by 石井恵理菜

 「鳴き声以外、捨てるところがない」と言われるほど、豚は沖縄の食文化に欠かせない。古くから庭先で豚を飼い、家庭や地域で余った食べ物を豚に与えるなど、人と豚の生活が密接だった。一方で、周辺の宅地化に伴い養豚場からの悪臭が環境問題になるなど、社会の変化と共に養豚産業もさまざまな変遷をたどってきた。今回の豚熱発生の教訓として、衛生管理の高度化への対応が業界全体に迫られており、新たな転機の時期を迎えている。

県内で農場HACCP認定取得も進む。豚熱が発生した喜納農場も、農場HACCP取得に向けて勉強会を開く=2020年10月、沖縄市(提供)

 「人間が住む家はボロボロでも、豚小屋は立派だった」。そう語るのは、獣医師で県内養豚に詳しい平川宗隆さん。干ばつや台風に左右されやすい沖縄は、豚の餌を集めるのも一苦労だった。1605年にイモが沖縄に伝来すると、イモのツルや皮を餌にして豚の飼育も容易になった。

 豚のふん尿は畑の堆肥として利用し、農業の循環システムが成り立っていた。豚を購入して子豚を産ませ、農家が貴重な現金収入を得る手段にもなった。

 長い歴史のある沖縄の養豚産業だが、復帰前後になると、農業と畜産の複合経営は減って専業化が進む。沖縄全体の市街地開発が進んだのに伴い、養豚業が生活の場から切り離される流れは加速した。

 人と動物の関係を研究した『沖縄の人とブタ』など著書がある比嘉理麻沖縄国際大准教授(文化人類学)は「豚が総合的な役割から、『肉』という一つの役割に切り縮められた」と変遷を指摘する。

 農林水産省の統計によると19年2月時点で、県内の養豚農場数は237戸で、全国5位の多さ。一方で、1戸当たりの飼養頭数は885.2頭と38番目の低さとなる。大規模な施設による近代的な企業経営が少なく、小規模農家が多いのが特徴だ。

 離島県で養豚場を営める場所が限られてきた結果、農場の密集も顕著だ。県畜産課の独自試算によると、沖縄本島の養豚場は、1キロ平方メートル当たり0.188戸。豚熱が発生した愛知県の4.9倍、群馬県の5.6倍に上り、全国1位の密度とみられる。

 残飯飼育など昔ながらの方法で豚を育てる小規模農家も多く、伝染病の防疫を難しくしてきた。養豚場が近接するため、一つの養豚場で家畜の病気が発生すると、感染が広がりやすいリスクがある。

 豚熱の再発防止や新たな家畜伝染病の侵入を許さないため、末端の小規模農家まで衛生管理を徹底できるかが、これからの畜産行政や業界に問われている。

 こうした中で、衛生管理の高さを第三者機関が認証する「農場HACCP(ハサップ)」の認証取得の取り組みが進んでいる。県によると、県内では県食肉センター(南城市)、福まる農場(南風原町)の2事業者が農場ハサップを取得している。豚熱が発生した喜納農場(沖縄市)も、取得に向けて奮闘している。

 県食肉センターは18年の取得以降、認定農場を8施設に広げた。同社の獣医師・大城守さんは「食品の安全確保だけでなく、食品を扱うという農場管理者の意識を高められた。職員のモチベーション向上にもつながった」と話す。

 衛生管理の徹底は病気を防ぐだけでなく、農家の経営意識を高め、肉質の向上など生産性の向上にもつながる。県獣医師会の工藤俊一会長は「豚熱を機に、各農家で設備投資をして飼養衛生管理を高める動きがある。沖縄の大事な産業を守るためにも、飼養衛生管理基準を守ることが共通の認識だ」と話した。