「衝突」越えて速さに磨き 目指すアジア頂点、その先に五輪が…カヌーC2當銘孝仁・大城海輝<憧憬の舞台へ>


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東京五輪のアジア予選に向けスピードを磨く大城海輝(左)と當銘孝仁=15日、宜野座村の漢那ダム(大城直也撮影)

 カヌー・スプリントの男子カナディアンペア1000メートルで東京五輪出場を狙う當銘孝仁(28)=大正大出、新潟・三条市スポーツ協会、大城海輝(27)=鹿屋体育大出、三重県スポーツ協会。沖縄水産高時代から組み、10年以上がたつベテランペア。感覚だけで分かり合えていた部分も多かったが、昨年末に練習に対する主張の食い違いで衝突し、意見を交わしたことをきっかけに以前よりコミュニケーションが増えた。より2人の呼吸が合い「一発の進みが強くなってきている」(當銘)と今も成長を続けている。コロナ禍で昨年4月に代表合宿が一時中断したが、6月に石川県で再開。その後は通常時の練習が続けられている。年明けからは宜野座村の漢那ダムを拠点に鍛錬を積む。

 再開後はカヤック種目で英国を五輪2連覇に導いた旧ソ連出身のアレクサンドル・ニコノロフコーチに師事している。練習時間はこれまでの3分2に減ったが、密度は濃い。ちょうど競い合えるスピードというカヤックのシングル陣と練習を共にしてきた。

 大城は「テンポやバランスがかみ合い、お互い調子もいい。昨夏はカヤックに勝てなかったけど、今は前をこいでる」と好感触を語る。この1年間に開催された大会は昨年9月の日本選手権のみだが、日常的にカヤックと競走することで「(実戦感覚に)不安はない」と言う。

 上り調子の要因がもう一つある。1学年違いの2人。これまでは先輩の當銘が「こうした方がいい」と物事を決める構図だったが、昨年末の高知合宿で変化が生まれた。

 練習メニューのこなし方で認識の食い違いがあり、當銘が強い口調で主張すると、大城がめずらしく反論。おとなしい性格の大城が強く主張したことに當銘も感ずるところがあり「普段から思ったことがあれば言えばいい」と伝えた。互いに速さを追求する真剣さゆえの衝突。それ以降、「こんな感じか」「進み具合はどうだったか」と水上でのやり取りが増えた。當銘は「あれが転機になった。(ストロークの)タイミングや強さは確実に良くなっている」とスピードの向上を実感する。

 當銘には私生活でも明るいニュースが。昨年4月に二つ上のカリンさんと結婚し、11月には長男の栄仁君が誕生した。「家族」という帰る場所ができ「今はオンとオフがはっきりしてる」という。「子どもはかわいいし、癒やされる。疲れも吹っ飛ぶ」と競技にも好影響が出ているようだ。

 優勝すれば五輪出場枠を獲得するアジア予選が3月に迫る。2人は後半の伸びを強みとするため、當銘は「スタートで前に出られなくても、近い位置をキープすれば勝つチャンスは大きくなる。ぎりぎりの試合になる。何があっても慌てない」とレース展開を描く。大城は「アジアで勝つ実力があれば五輪でもいいレベルで戦える」と語り、その先にある大舞台を見据えた。
 (長嶺真輝)