県民意見を反映させる仕組みを 所有権問題も議論が必要 親川志奈子氏寄稿<首里城再建を考える・主体性回復への道>


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首里城火災の翌日、菅義偉官房長官(当時)に早期再建への支援を求める玉城デニー知事=2019年11月1日、東京都の首相官邸

 2019年10月31日未明、ブラジルのウチナーンチュからの連絡で首里城火災を知った。寝ぼけ眼でテレビをつけると炎に包まれる御城(ウグシク)の姿があった。その日からの沖縄は首里城一色であった。こんなにも多くのウチナーンチュがアイデンティティーやナショナリズムを語っている姿に驚いた。首里城再建を願う人々の言葉や寄付の話題が連日紙面をにぎわしていたが、次第に「首里城再建のあり方を問う」視点が加わるようになった。

 

取り残された感覚

 火災の翌日、玉城デニー知事が上京し、政府に首里城再建への協力を求め、政府与党は全面支援の姿勢を示した。現在首里城の再建は所有権を持つ国の事業となっており、内閣府沖縄総合事務局には首里城復元に向けた技術検討委員会が設置されている。沖縄県はロードマップの作成や国との協力関係の構築、県に寄せられている寄付金の対応などを行うため首里城復興戦略チームを発足させた。2020年10月の時点で沖縄県や那覇市、沖縄美ら島財団に寄せられた国内外からの寄付金は50億円を超えている。寄付金は正殿に使われる木材を調達し国に寄付という形で活用されるという。

 沖縄県の「スピード感を持って」「国との協議を踏まえ」との言葉通り、国主導での復元に向けた話し合いが進んでいっているのだが、取り残された感覚を持つ県民も多い。政府の首里城再建へ向けた基本方針には「県民の意見を十分に反映できるよう、沖縄県の参画を得ながら検討を進める」とある。今こそ、どのような形で県民の意見を反映させるための仕組みを作ることができるのか、例えば意見を届けるプラットフォーム設置の検討など、早急に用意される必要がなかろうか。

 

学び直す機会に

 首里城は単なる観光施設ではない。琉球という国が存在した証であり、先人たちがどのような思いで建設し、燃えるたびに再建してきたか。首里城の歴史をいま一度学び直す機会にするべきではないか。そして現在に首里城をよみがえらせる意味を考え直してみたい。

 それは戦後に復元された首里城のレプリカを造る、ということではないだろう。歴史を振り返り奄美や宮古、八重山、与那国を含めた琉球のそれぞれの地域にとって首里城がどのような存在だったかを学び合い、話し合う作業も求められると感じている。

 首里城が琉球併合の象徴として日本への同化政策に利用された点も忘れてはならないと感じた。1879年から1909年まで、首里城は日本軍の営所とされた後、1925年には正殿が「沖縄神社拝殿」とされていた。沖縄戦では日本軍の司令部が置かれたことで焼失した歴史も確認したい。

 残念ながら現在のところ琉球に生まれ育った私たちにとって、琉球の歴史を学ぶ機会も学ぶ場も当たり前に用意されているものではない。「仏作って魂入れず」ではないが、沖縄の私たちは皆、首里城の存在を知っているが、どのような王がいて、どのように国を運営し、どのように外交をしていたかについて広く知られているわけではない。義務教育の中で日本史を学ぶように琉球史を学べるわけではないからだ。

 足を運ぶことでこれまで以上に歴史に触れることのできる首里城であってほしいと思う。また、焼けてしまった首里城の存在は知っていても「中に入ったことはない」と答える県民も多かった。県内外からの観光客や修学旅行生だけでなく県民が足を運べる首里城にすることも必要だろう。世界のウチナーンチュがルーツを学べるように多言語による案内も必要だろう。

 

課題に向き合う

 また、すでに上がっている「首里城再建のあり方を問う」声を丁寧に精査し、議論し、納得のいく形で再建していってほしい。龍柱の向きや第32軍司令部壕の保存や公開など、前回の復元の際にはおざなりにされた課題にも向き合うべき時が来たのだと思う。

 焼失前沖縄県は国に対し都市公園法に基づき年間2億3千万円もの国有財産使用料を四半期ごとに支払っていたというニュースには驚きの声が上がっていた。元来、首里城跡は旧首里市の所有で琉球大学に譲渡され、復帰で国に譲渡された経緯があるという。首里城の所有権移転については「国と協議せず」というところでストップしているが、県民の声を反映させ所有権問題についても議論を深めてほしい。

 個人的には「国に造ってもらった観光客が行く首里城」ではなく、「私たちが造り歴史を学ぶために何度も足を運ぶ首里城」が再建されたら良いと考えている。とにかく早く完成させるということに重きをおかず、資金調達、材料の準備、技術の継承、人材育成など全てを吟味し、県内外のそして世界のウチナーンチュと語り合いながら再建していくことはできないだろうか。そのプロセス自体に価値があり、それが力になるのではないかと思う。私たち県民の思いを反映させる首里城の造り方もまた、私たち県民の力でつくっていけるのではなかろうか。

 首里城再興研究会主催の第2回公開シンポジウム「首里城再興について―沖縄の主体性と県民参加のあり方を考える」が13日午後3時から午後6時、那覇市の県立博物館・美術館2階講堂で開かれる。新型コロナウイルスの状況によっては日程を変更する可能性もある。登壇者は安里嗣淳氏、安里英子氏、喜納昌吉氏、島袋常秀氏、田名真之氏、波照間永吉氏。司会は親川志奈子氏。入場無料。資料代は1セット500円。メイン会場は先着80人限定。13日午後2時半から会場入り口で整理券を配布する。ユーチューブでの生配信もあり、次のQRコードからアクセスできる。問い合わせは同研究会(電話)080(6485)4893(伊佐)。

親川 志奈子さん

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 親川 志奈子(おやかわ・しなこ) 1981年生まれ、沖縄市出身、那覇市在住。沖縄大非常勤講師。2013年設立の琉球民族独立総合研究学会の発起人メンバー。専門は社会言語学。消滅危機にある琉球諸語の復興を研究。