【深掘り】中国海警法施行 尖閣念頭、自民内に警戒論 政府は中国の出方注視


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尖閣諸島

 【東京】中国海警局の巡視船などに武器使用を認めた海警法が1日に施行されたことを受け政府・与党内で警戒論が高まっている。自民党内には石垣市の尖閣諸島を念頭に、領海警備で自衛隊の関与を深めたり、新たな法整備を求める声があり、今後、取りまとめに入る。一方、政府は中国側の出方を注視する構えだ。

■拡大解釈

 9日に行われた自民党の外交・国防部会合同会議では海警法を巡り批判の声が相次いだ。

 警戒を強めているのが武器使用を巡る規定だ。海警法は外国組織や個人による違法な侵害を受ける場面で「武器の使用を含む全ての必要な措置を講じ」ることができると記述した。日本の海上保安庁法も武器使用を記述するが「当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるとき」などと制限を設けており、海警法に対し「武器使用の拡大解釈が可能だ」と警戒感をあらわにした。

 海警船舶の活動エリアを「管轄区域」としているのも懸念材料だ。国連海洋法条約で規定された「領海」や「排他的経済水域」といった言葉と違い、自国で解釈の変更が可能なためで「領有権を主張するエリアで行動する根拠とならないか」との声がある。

 海警法に先立ち中国政府は2018年、海警局を内閣に相当する国務院の傘下から、中央軍事委員会の指導を受ける武装警察に編入した。国防部会内では「海警が第2海軍になった」として政府に強い対応を求める声が相次いだ。

■「無害通航」否定も

 「国民の感じる不安と政府答弁にかい離がある」として、政府姿勢もやり玉に挙がる。

 こうした与党内の動きに押され、政府のメッセージも日々変化している。3日に行われた日中両政府の実務者が話し合う「高級事務レベル海洋協議」で日本側は、海警法が「国際法に反する形で適用されることはあってはならない」と指摘し、正面からの批判を避けた。だが、岸信夫防衛相は9日に米国のヤング臨時代理大使と防衛省で面談した際「大きな疑念を有している。断じて受け入れられない」と強調した。同日、茂木敏充外相は会見で「尖閣諸島周辺の我が国領域内で独自の主張をするといった海警船舶の活動は国際法違反」だと明言した。外国船舶が安全や秩序を乱さない限り、通航が認められている国連海洋法条約上の「無害通航」に当たらないとの姿勢を示し、一転して態度を硬化させている。

■運用を注視

 ただ、海警法施行前から海警船は武器を装備している。中国では内規を公に法制化する潮流があるといい、今回の法律も「これまで内規で運用していたものを法律で明記した」(外務省関係者)との意味合いも大きいとみられている。

 軍事委員会の傘下とした扱いについても米国の沿岸警備隊も軍人として位置付けるなど「軍隊であることがすぐに問題になることではない」(政府高官)。自民党の一部から上がる自衛隊の投入を進めれば「『日本が先に動いた』として、中国海軍が介入する口実を与えかねない」との警戒感が強い。

 1日の法施行以降、海警局船舶による領海侵入が発生している一方、武器の使用はなく、中国側の行動に変化は見られないという。中国が引き続き国際条約を順守する姿勢を示す中、政府高官は「中国側が法律をどう運用するのか。出方を引き続き注視する必要がある」と話した。

(知念征尚)