[日曜の風・香山リカ氏]ある医師の見解 沖縄だから見える


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 ちょうど今から1年前、3度にわたって沖縄を拠点に活動する総合診療医の徳田安春氏とオンライン対談を行った。その内容は『医療現場からみた新型コロナウイルス』という本にまとめたが、徳田氏の発言を伝えた私の昨年5月1日のツイートが、今になって再び注目を集めている。その“再ブレイク”しているツイートの一部を引用しよう。

 「専門家が『来年のオリンピックはむずかしい』と言った。私が、『ですよね。日本が落ち着いていても他国がね」』と言うと、『いや、来年、諸外国は封じ込めと経済再開に成功して、日本だけ感染の再燃を繰り返し、経済活動も始められてない可能性がある』と返ってきて、恐ろしさに震えた」。どうだろう。その通りになったのではないか。

 最近になってこのツイートを取り上げた人たちは「1年前にこんな予想ができていた医者がいたなんて」「どうしてこの先生の言うことを聞いて対策を立てなかったの?」と驚いたり疑問を投げ掛けたりしている。

 なぜ予想が可能だったのか。もちろん徳田医師が優れた専門家だったからなのだが、私は沖縄という場所も関係していると感じた。医学教育のため国内ばかりか世界を飛び回ってきた徳田医師は、米軍基地が密集し、オスプレイが低空を飛び交う沖縄の特殊な事情を身をもって知っている。

 国の中枢にいる人や権威ある人の言うことに従い、「自分の専門領域以外のことは分からない」という態度ではいけない、地方からもどんどん自分たちの置かれている理不尽な状況や社会問題について訴えていかなければならない、という徳田医師の決意は「医師が沈黙を破るとき」という著作で熱く語られている。

 沖縄にいるからこそ、1年前から正しくコロナを巡る状況を見据え、「とにかく検査の拡充と感染者の早期発見、隔離を」と訴え続けることができた徳田医師。しかし、その声は一部の人たちを動かしはしたが、国全体の方針にはなかなかならなかった。

 「沖縄だからこそ見えること」はほかにもたくさんあるはずだ。そろそろ中央にいる権力者たちも、その声を尊重して必要なときには従うべきなのではないだろうか。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)