伊江島で在沖米軍の訓練公開 相手はどこ? 記者が見たその狙いとは


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 在沖米海兵隊は離島などを占拠して攻撃や補給の臨時拠点を設ける「遠征前方基地作戦」(EABO)に関連する訓練を、伊江島補助飛行場(伊江村)を拠点に繰り返している。訓練は渡名喜村の入砂島やうるま市の浮原島など広い範囲に及び、騒音など県民の基地負担は増している。対中国を想定しているとみられ、緊張が高まれば有事の際に沖縄が巻き込まれる恐れもある。本紙の記者3人が16日、伊江島補助飛行場内で実施されたEABOの訓練を間近で見た。

攻撃を受けた想定で消火訓練を行う米軍兵士ら=16日、米軍伊江島補助飛行場(ジャン松元撮影)

 この作戦は離島などに素早く移動して臨時の拠点を立ち上げ、長射程の対艦や対地、対空ミサイルのほか、通信システムや情報収集センサーなどを運び込むものだ。今回の訓練は12日から27日までで、陸海空軍を含め兵士ら約330人が参加している。

 雨が降りしきる中、UH1Y多用途ヘリとAH1Z攻撃ヘリがごう音をとどろかせ、記者らの目前に広がる平地に着陸した。海兵隊が一時的に設置した補給拠点だ。4機が一度に並んで給油や弾薬の補充を受けられることから「フォーポイント」と呼んでいるという。2万ガロンを収めるタンクから航空機にホースで燃料を注いでいく。2機は約20分で補充を終え飛び立った。

 EABOの特徴的な要素の一つは戦略的陸上給油システム(TAGRS)だ。今回は実施されなかったが、担当の兵士は「ミサイルなどの補充もできる」と説明した。

オスプレイからパラシュートで降下し、着地する米兵=16日、米軍伊江島補助飛行場(ジャン松元撮影)

 普天間飛行場所属のMV22オスプレイを使ったパラシュート降下訓練も繰り返し確認された。高度3千メートルから降下しながら、周辺を偵察する部隊だ。島しょを拠点とするEABOの核となる動作だが、伊江島では兵士が度々フェンス外に着地する事故が起きている。

 部隊の食事を用意する野営の食堂では、敵のミサイル攻撃を受けたことを想定し、素早く復旧する訓練もあった。防護服をまとった海兵隊員が放水ホースを手に消火活動に当たる手順を確かめていた。その後、実際に使っている台所に入った。1日1500食分を供給できるという。担当者は「島しょでの戦闘では衣食住を現地で完結させる必要がある」と話す。長期化した場合でも、食料の補充さえあれば戦闘を続ける体制を保てると強調した。近くの救護所では負傷兵が運び込まれた想定で、兵士らが応急処置の工程を確認する作業が進められた。

 海岸沿いでは兵士2人が海水をくみ上げて真水に変える装置を運用していた。浄化した水は飲料や調理、シャワーに使うことができる。口に含むと塩味は全くない。島に外から運び込まずとも水を確保できる態勢を整えることができる。

 取材に応じた第172海兵航空師団支援中隊のジェームズ・プライヤー司令官は「訓練は世界のどこかの島で(有事が)発生したというシナリオだ」とし、必ずしも沖縄周辺を想定したものではないと断言する。EABOの特徴を考えれば、辺野古新基地のような広大な米軍基地は不要ではないかという問いには「沖縄は作戦を実行する上で大切な拠点であることに変わりない」と否定した。

(明真南斗、当銘千絵)