増える盗掘・投棄…やんばるガイドの誇りと不安<沖縄・奄美 世界遺産に>上


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世界自然遺産登録を見据え講習を受けるガイドら=2020年1月、国頭村辺土名の与那覇岳

 約20年前、国頭村などはやんばるの自然の魅力を伝えようと、森林ツアーを企画した。すぐに定員に達し、盛況だった。固有種を含むエビネ(ラン科の多年草)などが生息する森で、地元ガイドの男性が案内し、参加者は興味深そうに周囲を見渡す。やんばるが人を引きつける魅力を再確認し、誇らしかった。

 ところが、年月が経過すると花は減り、中には盗掘されたとみられる痕跡も見つかったという。「観光と自然の保全は両立しなければならないと痛感した」。男性が強調した。

 環境省の推計で北部地域への観光客数は2009年に約32万7千人だったが、5年後の14年には1・8倍の約59万2千人に上った。森林のほか観光施設などが人気を集め、地域経済は活性化した。一方、不法投棄など自然への負荷や盗掘などの問題が顕在化した。

 各地域やガイドが森を守ろうと取り組んできた。17年に政府が「世界自然遺産登録」を申請した。国頭、東、大宜味の3村は「やんばる3村世界自然遺産推進協議会」を設立し、一つの目標に向かって動き出した。

 行政以外の活動も活発になった。地域住民らが林道をパトロールし、希少生物の密猟防止や外来種の情報収集などをしてきた。

 北部3村の集落ごとの組織などで構成される「やんばるリンクス」。山川安雄代表は「林道パトロールなどを通して、住民が地域資源として自然について学び、深める場にもなった。森を保全しながら活用し、新たな振興のあり方を模索している」と話した。環境省やんばる自然保護官事務所の安藤祐樹上席自然保護官は「地元の人は熱心に森を守っていこうとする意志が強い」と評価する。

 観光客増加を見込み、自然の保全と活用、ガイド中の事故や遭難の危険性を減らすことなどを目的に、3村は自主ルールとしてガイド制度を策定した。国頭村はさらにガイドの条件を厳しくした「公認ガイド」を条例で制定し、21年4月に施行した。

 ただ、世界自然遺産への登録後、やんばるの森を訪れる観光客がガイド制度を利用するとは限らず、自主ルールが空文化する懸念もくすぶる。林道パトロールに携わってきた国頭村辺野喜の新里和正さん(65)は「屋久島などと違い、車を使えばすぐに入って来られる。生活路もあるので交通規制は難しい」と規制の実効性に課題があると指摘した上で、ガイド制度の利用を呼び掛けた。
 (長嶺晃太朗)


 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」に対する世界自然遺産登録への勧告があり、7月にも登録される見込みだ。地域の取り組み、課題を探る。