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中東の緊迫化 米中関係にも影響<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 イスラエルとパレスチナ自治区ガザの間での戦闘が激化している。ガザを実効支配しているのはイスラム教スンナ派系の武装集団ハマスだ。10日、ハマスがイスラエルの諸都市をロケット弾で攻撃した。これに対して、イスラエル軍は、ガザに対してドローン(無人飛行機)や有人爆撃機による空爆を行った。

 日本ではほとんど報道されていないが、ガザからの攻撃は、ハマスだけでなく、イランの支援を受けるイスラム教シーア派の武装集団「イスラム聖戦」によっても行われている。

 <彼ら(引用者註*「イスラム聖戦」)はイランから供給されたロケット弾か、またはイランから供給された部品を使ってガザで製造したロケット弾で、イスラエルの民間人を殺害しようとしている。ハマスのロケット弾は保有量がかつてなく増加し、かつてなく先進的なものになっている。イスラエル国防軍(IDF)によれば、16日の時点でイスラム主義者たちがイスラエルに打ち込んだロケット弾の数は約3000発に上っている。現状よりも多くのイスラエル人が死亡しなかったことが奇跡であり、それはイスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム」によるところが大きい。>(5月17日「ウオールストリート・ジャーナル」[WSJ]社説)。

 8日の本コラムで筆者は、「米国はイランとの対話路線にかじを切りつつあるように思える」と指摘した。イランは米国の路線転換をバイデン政権の弱さと考えた。そして、この機会を利用してイランの影響下にある「イスラム聖戦」がハマスと連携してイスラエルへの短距離ミサイル攻撃に踏み切った。

 <こうした全てのことが、イランに働き掛け、2015年の核合意に復帰を急ぐバイデン政権を立ち止まらせるはずだ。核合意はイランの核兵器開発を止めることはできず、同国の核兵器配備が可能になるまでの時期を単に遅らせただけだった。一方、同合意によりイランは、中東地域で同国の代理抗争を行うハマスを含む勢力の武力強化に向けてより多くの資金を手にし、影響力を強めた。/バイデン大統領と戦略担当者たちは、核合意への復帰は米国が中東から撤収する手助けになると考えている。ハマスとイスラエルの紛争が示すように、それは正反対の効果をもたらす公算が大きい。>(前掲WSJ社説)。

 バイデン政権は今後、イスラエル・パレスチナ紛争とイラン問題に忙殺される。米国にとって、イスラエルを支持することが米国内のユダヤ人とキリスト教保守派(親イスラエルのクリスチャン・シオニズムの立場を取る人が多い)に大きな影響を与えるので内政問題に直結する。

 米国に中東と中国の二正面で武力介入を行う余裕はない。中東情勢が緊迫すると、中国に対して米国は静謐(せいひつ)戦術を取らざるを得なくなるであろう。米中対立がどの程度の水準に達するかは、沖縄の安全保障環境にとって重要な与件になる。玉城デニー知事がイニシアティブを発揮し、県により独自の情報収集と分析を行い、近未来の予測を立てる必要がある。

(作家・元外務省主任分析官)