沖縄県が観光広告、3月に旅行者向け「感染対策」 専門家は人流抑制に逆行と指摘


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県が全国紙に出した「新しいおもてなしの沖縄へ」とする一面広告

 新型コロナウイルス感染症対策を巡り、県が今年3月、観光客向けに感染症対策を呼び掛ける新聞広告を出した。3月下旬以降、感染が急拡大する中、玉城デニー知事は「まん延防止等重点措置」や緊急事態宣言の国への適用要請に慎重な姿勢を続けた。人の移動が増えた5月の大型連休後、感染者が連日過去最多を更新し続けていることも相まって、県の対応に批判が上がっている。調査団体インフォームド・パブリック・プロジェクト(IPP)の河村雅美代表が情報開示請求で入手した資料によると、県は広告の掲載費として2275万2000円を電通沖縄に支払った。

 広告は読売新聞と朝日新聞、日本経済新聞にカラーで一面を使って掲載された。「新しいおもてなしの沖縄へ」「笑顔でお迎えするために」と記されている。玉城知事と、医療関係者らでつくる県専門家会議の高山義浩医師(県立中部病院感染症内科)が、沖縄への旅行を迷っている人に、県の感染対策を説明する体裁になっている。

■事業目的

 県担当者は「感染対策を呼び掛けるのがメインだ」と説明した。ただ、IPPが入手した県の資料によると、広告の掲載は「観光誘致対策事業」の一環だ。事業目的には「落ち込んだ旅行需要の回復を図るため、県外向けに感染防止対策の徹底を呼び掛けた上で来県を促進するPRを行う」とある。

 県の担当者は「(予算上は)誘致の費用だが、今すぐ無防備に来てくださいという呼び掛けではない」と否定した。当初はより来県促進に力点を置いていたが、感染者の増加に応じて軌道修正したという。

■感染拡大

 3月上旬の新規感染者は一桁から20人台で推移していたが、その後、感染拡大が続いた。広告の提出直前まで文言を調整し、玉城知事の言葉として「状況次第では来県自粛をお願いすることもある」と入れ込んだという。

 ただ、その呼び掛けは見出しに入っておらず、どの程度注意喚起につながったか不透明だ。感染対策に関わる重要な政策だが、専門家会議には諮っていない。

 琉球大学大学院の藤田次郎教授(感染症・呼吸器・消化器内科学)は「人の移動を推奨する『Go To トラベル』が最悪の結果をもたらす」とした上で、「それにもかかわらず、県は一面広告を出し、県外からの旅行者を積極的に沖縄に誘致しようとしている」と指摘した。

 群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春医師(臨床疫学)は「検査義務付けなど対策を徹底しない中で来県を呼び掛けるのは問題だ。ウィズコロナ政策で観光を回そうとすることに限界がある」と語った。
 (明真南斗)