ドイツ地ビールの消費激減…廃棄のピンチを作った「浮き輪パン」


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地ビールを使い、救命の浮輪をイメージし、ドーナツ型に焼かれたドイツパン=4月、ドイツ・デュッセルドルフ市

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、ドイツでも生活のさまざまな場面で制限が続いている。パンデミック(世界的大流行)以前は決して考えられなかったマスクの着用がすっかり定着する一方、次々と変わる政策や長引く規制に疲れを感じる人も多く、規制の緩和を求めるデモも行われた。ワクチンへの期待は高いが、混迷するワクチン政策には批判も強く、通常の生活への期待と感染拡大への不安が入り交じっている。

 そんな中で、人々の助け合いも広がっている。続くロックダウンによって売れ残った、職人による地ビールを廃棄から救うため、地域のパン職人がビールパンの特別製造を提案した。限定品として販売されると、朝には売り切れるなど市民からも支持され、人気となっている。

 ドイツ西部のライン川沿いのデュッセルドルフ市では、伝統的にアルトビールと呼ばれる上面発酵のビールが生産されている。旧市街の醸造所で、手作業で生産される黒めの褐色ビールで、市民や観光客にも人気だ。しかしコロナ禍に見舞われた昨年以降、ロックダウンによるレストランやカフェの閉鎖、集会やパーティーの禁止が続いた。2月には地元の一大行事であるカーニバルも中止となるなど、ビールの消費が激減していた。

 1848年からアルトビールを生産する醸造所が、地ビールの廃棄を嘆くと、同市や近郊の多くのパン職人が支援の手を差し伸べた。廃棄間近の6千リットルが各生産者に分配され、それを使用したパンが3月末から販売された。焼く時の水を全てアルトビールに置き換え、救命の浮輪をイメージしたドーナツ型に形成されたパンは「アルトビール救助リング」とも呼ばれる。

 パンにアルコール分は残らず、深い味わいに焼き上がっている。収益はビール醸造所に寄付されるという。

 店舗によって作り方や値段も変わり、瓶ビールを付けた販売もされる。店員も「午前中に売り切れてしまった」と笑うなど、販売直後から人気の商品で、当初は朝早くに売り切れていた。4月に入ると2軒目の醸造所のビールもパン作りに使用されるなど、支援の輪が広がっている。
 (田中由希香通信員)