国立劇場組踊公演 「執心鐘入」先達の型を再現 初代興照、由康の思い継ぐ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
宿を訪ねてきた中城若松(左・宮城茂雄)の顔をのぞき込む宿の女(親泊久玄)=15日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの組踊公演「執心鐘入」が5月15日、浦添市の同劇場であった。立方指導を二代目親泊興照が務め、前半は師匠の初代興照の型、中城若松が寺に逃げ込む場より後は真境名由康の型を中心に上演した。初代興照と由康は共に、1936年に東京で開催された「琉球古典芸能大会」(日本民俗協会主催)に出演し、組踊の芸術性の高さを本土に知らしめた先達。来年同日に迎える、組踊の国重要無形文化財指定50年の記念日を前に、先達の思いを継いだ演出の下、次代を担う立方が力を尽くした。

 「執心鐘入」は、一夜の宿を借りにきた若松(宮城茂雄)への思いが高じ、鬼になってしまった宿の女(親泊久玄)の情念を描く。

 若松が宿の女の家を訪ねてかさを脱ぐ場面は近年、宿の女が出てきた後に脱ぐ演出が多い。しかし、本公演では御冠船踊を継承する玉城盛重の教えに倣って初代興照が演じた型に従い、家に入る前にかさを脱がせた。また、座主が鬼となった宿の女を祈り鎮める場面は、由康の型に沿い、上手に歩みを進める鬼女が、振り向きざま打杖(うちづえ)を振り上げる動きを入れた。

打杖を振る鬼女(右端・岡本凌)に向かい経を唱える座主(右から2人目・親泊興照)ら

 宮城と久玄は、互いに女役と若衆役という役柄に合わせた吟づかい(じんぢけー)で、心地良い唱えを響かせた。興照は、「琉球古典芸能大会」で由康も演じた座主役で出演した。真境名由康組踊会で教授された技で、自ら舞台を引っ張った。

 興照は公演後、本に書かれた文字だけでなく、先達の技法を体得した保持者を通して芸を伝承する大切さを説いた。その上で、「組踊を上演する際に自らの理論理屈を用いて解釈すれば、きりがなく、本来の形が失われる。限られた所作だが本来の組踊の所作には、内面をも表現する全てが凝縮されている。舞踊もそうだが、先達の芸を追求することで『伝統芸能』としての組踊本来の姿が見えてくる」と話した。

 他出演は、田口博章、仲村圭央、玉城匠、岡本凌。後見に下地心一郎。歌三線は西江喜春、花城英樹、玉城和樹、仲嶺良盛。箏は上地律子、笛は宮城英夫、胡弓は川平賀道、太鼓は比嘉聰。地謡指導を西江が務めた。2部で「執心鐘入」を演じ、1部で舞踊5題を演じた。
 (藤村謙吾)