【深掘り】嘉手納基地「軍民共用論」長い歴史、高い壁…沖縄市が提起した背景は


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沖縄市が軍民共用化を調査する米空軍嘉手納基地=2020年6月

 沖縄市が2021年度から5年間を期間とする第5次総合計画前期基本計画の中で、米軍嘉手納飛行場の「軍民共用」に向けた調査研究や国への要請に取り組むと明記した。ただ、軍民共用を公約に掲げた桑江朝千夫市長自身も「相当ハードルが高い」と述べるように、多くの課題がある。

 嘉手納基地を巡っては外来機の飛来も相次ぎ、沖縄市を含む周辺自治体が米側に抗議を繰り返している。市が利活用による経済効果が大きいとする滑走路を民間機も使用すれば、航空機の飛行回数の増加が予想され、住民の反発を招く可能性もある。

 桑江市長は、既に沖縄本島には那覇空港があり、第2滑走路も供用したことから、仮に軍民共用が実現しても民間機の飛行回数が急増する可能性は小さいとの見立てを示す。「ただ、現実が近くなれば考えていかないといけない問題だ」とも話し、市は今後の調査で業界団体などへの聞き取りに基づく需要予想なども踏まえ、騒音に与える影響も検討する方針だ。

 そもそも米軍側が民間利用に難色を示すことは大きなハードルだ。下地幹郎衆院議員が14年に政党そうぞう代表として訪米し、嘉手納の軍民共用に米側の協力を求めた際に、国防総省は「日本政府から提案も受けていないが、軍民共用化が理にかなうとは考えづらい」との談話を発表し、押し返した経緯がある。

 基地の管理や騒音対策を含め、米側に大きな裁量がある日米地位協定の扱いも議論になる可能性がある。市側としても日米両政府への提案の前に、まず周辺市町村を含めた合意形成が必要という考えであり、計画に盛り込んだ「国への要請」は当面先の見通しだ。

 嘉手納の軍民共用化に関する議論の歴史は長い。1974年、沖縄市の前身である旧コザ市と美里村による「合併申請書」は、「新市発展の拠点として民間共用の実現を図るよう努力する」と記載していた。

 その後の市政の変遷で、軍民共用の議論は浮いては消える状況を繰り返しつつ、騒音問題や米側との交渉の難しさもあって実質的には塩漬け状態だった。

 今回の計画に調査を盛り込んだ背景について、市の幹部は「長い間議論されてきた案件だが、基本的なデータもなく、雲をつかむような状態で話をしてきた。まずは県外基地の実態や需要予測、法制度など基礎的な情報がなければ実質的な議論に入れない」と説明した。
 (島袋良太)